ラグビー日本代表から退任するエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC、55)が、痛烈な「置きみやげ」を残した。南アフリカから歴史的金星を挙げるなど、世界中を驚嘆させたW杯イングランド大会から13日に帰国し、都内で会見した。3勝しながら1次リーグ敗退となったW杯史上初のチームを率いた指揮官は、日本ラグビー界の問題点を指摘する最後の言葉を送った。19年日本大会、その先の未来のためにも、意識改革の必要を訴えた。

 祝福ムードが漂う雰囲気が変わった。都内ホテルでの帰国会見。感謝や歓喜の表情が満ちあふれる中、ひな壇中央に鎮座したジョーンズHCの声が熱を帯びた。

 「日本のラグビーは力を発揮しきってないと常々感じていた。良い選手がたくさんいても、文化がプレーするということに直結していない。高校から大学、トップリーグまでそう。規律を守らせ、従順にするためだけに指導されている」

 質問は「日本のラグビーがさらに上を目指すには?」。通訳が英語を日本語に訳するのを待たないで、血気盛んに進言が続いた。

 「足の速いウインガーが大学にいて、1週間に6日も、中距離ランナーのような練習をさせられている。そうなれば速さは失われる。ボルトはマラソン選手のような練習はしない。スプリンターだからだ」

 95年に東海大ラグビー部を手伝うために初来日した。それから20年。大学、トップリーグ、日本代表と、段階を追い問題点を痛感してきた。時にはあえて悪役になった。だからこそ、お祝いムードに水を差すことになろうとも、ここで積算した意見を表明することが、最後の仕事だった。

 快足WTB福岡の練習法がその一例。4月からの1カ月はチームと別行動で、10、20メートルのスプリントに特化した練習を繰り返させた。福岡は「走りの質はすごく良くなった。加速では実際に良い数値が出ていた」と効果を口にした。

 他選手たちも的確な強化策を実践し、成長を感じていた。それは従来の強化策とは違った。SH田中は「いまの大学のシステムは中途半端。高校はやらされている。対等にやってもらいたい」と共鳴。自身は大学時代にニュージーランド留学を経験。「大学生は海外ならプロですからね」。W杯最低身長の166センチながら、南アフリカ戦では最優秀選手賞。既成の育成システムの外で強さを学んだ言葉には、説得力があった。

 「ジャパン・ウエー」を掲げ、世界を驚かせた。そのエディー流を日本中で実行できれば、選手層は厚く、競争力も高まる。ただし、同HCは答えの最後に付け加えた。

 「しっかりとしたプランがなければ、強い代表はできないし、やり遂げる力も必要だ。でも、日本ではこれらを遂行するのは難しいだろう。変化を嫌う人もいるからだ」

 あえて困難を示した。最後も悪役に徹したのは、奮起を促してのことだろう。これからどんな結果を残せるのか。その答えはW杯を戦った31人の選手だけでない、この4年間で生まれた「エディー・チルドレン」が握っている。【阿部健吾】