レスリング女子でオリンピック(五輪)4連覇の伊調馨(33=ALSOK)を巡るパワーハラスメント問題で、日本協会は6日、都内で緊急理事会を開き、栄和人強化本部長(57)の辞表を受理した。協会が設置した第三者委員会の聞き取り調査の結果、栄氏から伊調と、伊調のコーチを務めていた田南部力氏(42)に対する4件のパワハラを認定。福田富昭会長(76)は栄氏のパワハラを認めて謝罪した。

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 あまりに近い選手との距離感が栄氏のパワハラにつながった。決して言葉が巧みでなく、ストレートな物言い。理屈よりも感情で発する言葉で選手を導いてきたが、誰にでも当てはまるわけではない。吉田や登坂に対する発言には、今回と同様なものもある。その近い距離感が、両者の関係性によってパワハラになる。

 問題はパワハラだけではなく、代表選手選考も含んだ強化のあり方にある。いくら強豪とはいえ、一大学の監督が強化本部長を務めた。大学の立場を離れられればいいが、栄氏は「至学館大監督」のままだった。代表合宿などで「全階級至学館大で占める」という発言は多くの関係者が聞いている。大学監督の思いとしては当然だが、強化本部長としては許されない。

 地元開催の東京オリンピック(五輪)を控え、各競技団体は代表選考に慎重になる。体操は強化本部長に自前の選手を持たない水鳥寿思氏を置いた。競泳はタイムと順位と基準が明確、柔道は代表選考の強化委員会をメディア公開する。が、レスリングは旧態依然だった。男子はプレーオフなど明確な基準を設けるが、女子は「強化委員会が決める」。選手層が薄かった時代は仕方なかったかもしれないが、今はそういう段階ではない。

 栄氏辞任だけでは問題は解決しない。協会は1日も早く、まずは女子の強化体制を再構築すべき。公平で透明性のある強化、選手選考にしない限り、女子レスリングに未来はない。伊調や田南部コーチの思いも、そこにあるはずだ。東京五輪まであと2年だが、選手選考は今年末の全日本選手権から始まることになる。強化体制を整え、早急に五輪代表選考基準を選手に明示すること。アスリートファーストは、まずそこから始まる。【荻島弘一】