男子はジャパンカップ3連覇中の藤井快(こころ、25=TEAM au)が、A組2位で準決勝に進んだ。高難度の第5課題こそ完登を逃したが、安定感のあるパフォーマンスで4課題を完登した。16年世界選手権優勝の楢崎智亜(21=同)も同組3位で通過。女子は3連勝を狙う野口啓代(29=同)と野中生萌(みほう、21=同)が全5課題を完登して準決勝に進出した。今日3日に準決勝と決勝が行われる。

 高難度に設定された最後の第5課題はクリアできなかった。藤井は半球のホールドに飛び付き、腕と指に力を入れて保持する動きに消耗して、そこから上に登れなかった。A組45人中第5課題を完登したのはわずか2人。「パワーを使う課題は得意ではないけれど、力を出せるように切り替えられたら変わったかも」。それでも第4課題まで安定感のあるパフォーマンスでA組2位。ライバルの楢崎を上回り、「運がよかった」と控えめに言った。

 ワールドカップ(W杯)通算4勝、ジャパンカップ3連覇の日本の第一人者。これまでは感覚に頼って登っていたが、今季は筋や神経などの使い方を細かく意識している。開幕前から他競技のトップ選手たちが力を出す瞬間にどんな体の使い方をしているのか研究している。「テニスだったら、フェデラーが球を打つ瞬間のインパクトの強さはどこから生まれてるのか。サッカーで当たり負けしない体の強さは何だろうとかを意識して動画を見ています」。その成果が出たのか、5月のW杯重慶大会では約1年ぶりに優勝した。

 日本代表として臨むジャカルタ・アジア大会(8月)は、20年東京オリンピック(五輪)の方式でボルダリング、リード、スピードの3種目の複合が行われる。今季から週に2、3回の本格的な筋力トレーニングを開始した。「東京五輪で3種目やることで、トレーニングへの考え方も変わった」。今は110キロの重りを担いでスクワットにも励む。クールな藤井らしく2年後へ地道に準備を整えながら、まずは地元W杯で頂点に手をのばす。【戸田月菜】

 ◆藤井快(ふじい・こころ)1992年(平4)11月30日、静岡・浜松市生まれ。13歳の時に浜松日体中の部活でクライミングを始める。中、高時代は主にリードに力を入れていたが、中京大からボルダリングに注力。ジャパンカップでは16年から男子初の3連覇。B-PUMPTOKYO秋葉原店に勤務。五輪強化選手で20年東京五輪代表の有力候補。175センチ、65キロ

 ◆ボルダリングの順位決定方法 複数の課題を登り切った(完登)本数を競う。完登数が同じ場合は「ゾーン」と呼ばれる高度を獲得した数が多い者が上位。並んだ場合は完登に要したトライ数、さらにゾーンを獲得するために要したトライ数で順位を決める。例えば、この日の藤井の記録「4T4Z 1210」は4つの課題で完登し、ゾーンも獲得。完登までに要したトライ数は12で、ゾーン獲得に要したトライ数が10、ということになる。

 ◆東京五輪のスポーツクライミング 今大会で行われているボルダリングと、リード、スピードの3種目の総合で争う。ボルダリングは高さ約3~5メートルの壁にさまざまな形のホールド(突起物)が設置され、複数の課題(コース)に挑んで完登した数を争う。制限時間内に到達した高さを競うリードは壁の高さが12メートル以上で、ルート途中にある金具にロープをかけて安全を確保しながら登る。スピードは高さ15メートルの壁を登り、その速さを競う。東京五輪では各種目の順位を掛け合わせたポイントの少ない選手が上位になる。日本はボルダリングでは世界最強国でリードもトップレベル。欧州勢に後れを取っているスピードの強化が五輪メダルへのカギとなる。