ホッキョクグマと暮らした柔道家が静かに燃えている。柔道の世界選手権(9月、アゼルバイジャン)とジャカルタ・アジア大会に向けた男子日本代表の強化合宿が3日、宮崎県延岡市で行われた。男子66キロ級の世界王者、阿部一二三(20=日体大)の背中を追う、高市賢悟(25=旭化成)は熱のこもった稽古を続けた。

 左肘の靱帯(じんたい)を損傷して昨年手術した高市は、全日本実業団個人選手権(25~26日、兵庫・尼崎市)で本格的に実戦復帰する。「66キロ級での試合が約1年ぶりになるので、実業団個人で勝負勘を取り戻す。優勝して(11月の)講道館杯につなげたい」と気合を入れた。

 愛媛県出身で3歳から柔道を始めた。体幹の強さとスタミナを武器として古豪の伊予柔道会と愛媛・新田高で心身を鍛えた。東海大では男子60キロ級世界王者の高藤直寿(25=パーク24)と同期で切磋琢磨(せっさたくま)した。転機は14年4月の全日本選抜体重別選手権2回戦で海老沼匡(28=パーク24)から一本勝ちした。番狂わせを演じ、初出場で初優勝。世界選手権代表の切符を手にしたが、初のひのき舞台は5位に終わった。その後は、阿部が圧倒的な存在感を示し、陰に隠れていた。しかし、先月、阿部がグランプリ・ザグレブ大会で国際大会では3年ぶりの黒星を喫し、連勝を34で止めた。これを受けて高市は「こないだの負けを見て、自分にも少しはチャンスがあると思った。20年東京五輪を諦めていないし、この大きな壁を越えたい。この1年が勝負」と静かに闘志を燃やした。

 高市は柔道以外にも珍しい逸話を持っている。父の敦広さんは愛媛県立とべ動物園の飼育員で、日本で初めてホッキョクグマ「ピース」の人工保育に成功したことで有名だ。高市も小学校に入る前に自宅で約3カ月間、一緒に生活した経験がある。日本一有名なホッキョクグマと暮らした25歳は「今は自分がやるべきことをやるだけ。日本一が世界一につながる」とピース同様の活躍を誓い、厳しい戦いに真正面からぶつかっていく。