元女子日本代表監督の葛和伸元氏(64)が率いる日本航空(山梨)が3回戦進出を決めた。岐阜済美に第1セットを26-28で先取されたものの、続く2セットを25-21、25-19で連取。初戦のプレッシャーから序盤は持ち味の粘りのバレーが影を潜めたが、“春高初陣”の葛和監督の情熱采配で逆転勝ちした。

カミナリが落ちた。冷や汗の逆転勝利。葛和監督は試合後、選手を会場の裏通路に集めるとダミ声でまくし立てた。「どうして自分たちの全力を出し切れないんだ! 悔いを残したまま終わっていいのか! 何のために3年生は試合に出ている! もっとしっかりせんかッ!」。孫ほどの年齢差があり、代表監督時代のことをまったく知らない教え子たちは「ハイッ!」と声をそろえた。

97年から女子日本代表を4年間率い、NECやトヨタ車体でも総監督、監督を歴任した葛和氏が日本航空に招かれたのは昨年4月。17年6月に当時指揮を執っていた仙台ベルフィーユ(当時Vチャレンジリーグ)が経営難から解散したのを受けて、就任を要請された。指導理念は実業団時代と変わらない。人間的な成長なくしてチームの成長はない。人のことを感じられる、人のことを思いやれる人間になれ-。「ここにきてようやくチームにまとまりが出てきましたわ」と顔をクシャクシャにした。

厳しいだけではない。大会を控えて調子を崩したエース上島杏花(3年)を主将、レギュラーから外した。ただ、ユニホームだけは主将マークの入ったものを与えた。この試合も上島はベンチスタートだったが、劣勢の第1セット途中から迷わずコートに送り出した。「全然調子が上がらなかった私にキャプテンのユニホームを着させてくれた。期待に応えなければ、と思いました」。上島は強打と明るい笑顔で仲間を勇気づけ、逆転勝利へチームを導いた。熱だけではなく、情にあふれた采配だった。

「この大会は重いですよ。負けたら終わりですから。半分の選手はバレーも終わりですぐ卒業なんですよ。親御さんも涙ながらに応援してくださる。だからこの子たちと少しでも長く戦っていたい。高校バレーは監督も成長させてくれますわ」。昨夏の高校総体は1次リーグを勝ち上がったが、決勝トーナメントは初戦敗退。64回目の誕生日に“春高初勝利”をプレゼントされたが、葛和監督はそれだけでは満足しない。7日の3回戦は優勝候補の一角、福井工大福井に挑む。【小堀泰男】

◆葛和伸元(くずわ・のぶちか)1955年(昭30)1月6日、大阪府羽曳野市生まれ。大商大付高から法大を経て日本電気でプレー。日本電気女子(現NEC)監督として97年にVリーグ優勝。同年から女子日本代表監督を務めたが00年のシドニー五輪世界最終予選で敗れて出場権を逃し、辞任。その後、NEC、トヨタ車体の監督、総監督を歴任し、14年から仙台ベルフィーユを率いていた。