12月27日から大阪・花園ラグビー場で行われる全国高校ラグビー大会は第100回を迎え、すでに9月から各県の予選がスタートしている。今年の全国大会は記念大会として、例年より12校多い63校が参加。近年は私立全盛の時代が続くが、出場のチャンスが増えた公立進学校に焦点を当て、3回にわたり連載する。第2回は進学校で滋賀県立膳所(ぜぜ)高校を紹介する。

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滋賀屈指の進学校である膳所に8月上旬、丸刈りの新入部員が加わった。WTB近藤慶佳(3年)は高校野球代替大会の滋賀大会で正一塁手。18年センバツに21世紀枠で出場した野球部で甲子園を目指し、引退後に転身した。7月の身体測定ではラグビー部の森祥太郎監督(29)に「180センチ超えだ。入部おめでとう!」と誘われ「森先生に引きつけられた」と笑った。

皇子山中時代に「どうせなら一番賢い学校に行こう」と膳所を選んだ。志望大学は京大工学部。ラグビーの経験は一切なかったが、昨秋のW杯日本大会でトライを決める各国WTBの姿に、憧れが芽生えていた。

常に目の前の欲に対し、後悔のない決断をしてきた。親にラグビー部入りを相談すると「どうせやるんやろ?」と返ってきた。もちろん覚悟は決まっていた。

「正直な話、受験は失敗しても後がある。でも、ラグビーは今しかできない」

デビューは入部3日後の練習試合。最初は勢いで向かったタックルだが、技術を学ぶと、足が前に出なくなった。「むっちゃ怖くなってきました」。それでも野球仕込みの「声」は大外から、よく通る。SOのキックパスをキャッチすれば、駆け寄る仲間が自分のことのように喜んでくれた。

ラグビー部は87年度に花園初出場。八幡工の1強に風穴をあけた。02年度に3度目の出場を果たして以降は遠ざかり、現在は選手22人のうち経験者が1人。それでもOBが無償でBKコーチを担い、多くの卒業生が練習に顔を出す。手厚い支援は、期待の大きさを示す。

新型コロナウイルスの影響による休校が明けた6月。3年生9人全員が受験勉強へかじを切るため、退部の意思を示した。ラグビー部OBの森監督は強い口調で訴えた。

「3年生として、何か残したんか? 膳所高校でやりきったことを言える人間か?」

京大経済学部志望のフランカー梶原響主将(3年)が「ここまできたらやるしかない」と残留の意思を固め、5人が続いた。近藤が加わり7人。赴任3年目の青年監督は思いを込めた。

「近藤は大きな体を生かして、ゲインする。『大学でもラグビーを続けたらいいのに』と思います。部活は3年間しかない。極端に言えば、3年生のためにある。この秋、3年生がこれまで描いてきた絵を思い通り、ためらいなく、披露してほしいです。その上で強いて言うなら…。結果にこだわってほしいです」

滋賀県予選初戦は10月25日比叡山戦。近藤は「自分ができることやりきる」と誓った上で、言い切った。

「その結果、花園の切符がついてきてほしいです」

夢を追えるのは、今しかない。【松本航】

 

◆膳所 1898年(明31)に滋賀県第二尋常中として創立。ラグビー部は1948年創部。全国高校大会には87、97、02年度に出場し、いずれも1回戦敗退。17年には全国7人制大会に初出場し、高松北から1勝。主な同校OBは滋賀県の三日月大造知事(49)。昨年度は東大に現役1人、京大に60人(現役31人)が合格。