高木美帆(26=日体大職)が“史上初”の5冠を達成した。3日間で短中長距離5種目の完全制覇をやってのけた。

世界記録を持つ1500メートルを1分54秒08の国内最高&リンク記録で圧勝し、5000メートルもリンク新記録の7分7秒33で制した。前日までの500、1000、3000メートルを合わせた国内主要大会初の5種目優勝。22年北京オリンピック(五輪)プレシーズン、本番への期待が高まる強さを発揮した。

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肩で息をして、両手を膝につく。高木美は2レース目の5000メートルを滑り終えると疲労感を漂わせた。10年穂積雅子のリンク記録を11季ぶりに0秒23塗り替える貫禄勝ち。大会関係者らからの拍手におじぎしながら右手を上げる。「しばらく目が回っていた」。力を出し切って成し遂げた完全制覇。「5冠できたことより5本走り切れたことの方が達成感がある」と過酷な3日間を振り返った。

初日に今季初の500メートルで平昌五輪金メダリスト小平奈緒にも勝ち、5冠へ勢いに乗った。五輪後から短距離にも力を入れ、昨季世界スプリントでも世界一に輝いている。得意は中距離も「他の種目と違う難しさがあって、やり込めていないところもある。たくさんの可能性がある」と飽くなき向上心がオールラウンダーの真骨頂。本職の中距離、長距離にも刺激を与え、この日の偉業につながった。

コーチ陣と相談して決めた5種目出場。オールラウンダーとして、全種目で勝利と記録更新を狙いにいった。誰も果たしことがない快挙を支えたタフネスぶりは北海道・帯広南商高時代から。当時から周囲がレース数を減らすようアドバイスしても年間60戦近くこなしていた。「練習の取り組みとして長距離も短距離も今後に絶対につながると思っている。そのスタンスは変わらない」と語る。

3季前の平昌五輪は1500メートルで2位、1000メートルで3位に入った。その後スプリント能力を飛躍的に伸ばし、来季の北京五輪では500メートルを含めた3種目でメダルを狙える水準にある。今季は新型コロナウイルスの影響で国内での調整が続くが取り組みは間違っていない。「このハードなスケジュールを滑りきれるだけの体をつくることができたのが一番の収穫」。五輪シーズンへ、このまま突き進めば、世界女王の座は見えてくる。【保坂果那】

◆全日本選手権の完全優勝 時代によって4種目の実施距離は違うが、すべて1位で総合優勝したのは過去6人。8回大会(37年1月)の江島八重子が初で2大会連続で達成。24、25回大会で高見沢初枝、29、30回大会で鷹野靖子がそれぞれ成し遂げている。通算12度の総合優勝を果たした橋本聖子が51回大会を皮切りに最多5度の完全V。ほか田畑真紀が68、71回大会、高木美帆は84回大会(16年12月)で達成している。男子の達成者はいない。

◆スピードスケート全日本選手権 日本連盟主催で1929年から開催されている歴史ある大会。例年12月に実施され、男女各4種目の総合成績で順位を争ってきた。81~90年には橋本聖子が10連覇。16年には高木美も優勝。昨年から500、1000メートルで争う全日本スプリント選手権と統合。500、1000、1500、3000、5000メートルの種目ごとに優勝者を決める形になった。