コートの外では別の話題で揺れていても、若い選手たちは真っすぐな気持ちで待望の大舞台に臨み、仲間と励まし合い、ときには悔しさや喜びの涙を浮かべた。

空手の高校選抜が3月24日から3日間、東京体育館で行われた。コロナ禍により前年の大会が中止となって以降、高校総体(インターハイ)など各種大会が相次いで中止となってきた中で、ようやく実現した全国大会。感染症対策としてメンホー(頭部を覆う防具)の口元に飛沫防止シールドを装着した上で、選手たちは元気な声を響かせ、はつらつと技を競い合った。

女子団体組手では高松中央(香川)が“2年越しの連覇”を遂げた。済美(岐阜)との決勝では、先鋒と次鋒がともに終盤に逆転されていきなり2連敗。重たい雰囲気を大きく変えたのが中堅として登場した釜つばさ(新3年)で、崖っぷちの一戦でも「自信を持って、堂々とやれた」。個人59キロ超級決勝でも戦った寺沢紗良を相手に、試合序盤に電光石火の突き技で1ポイント先取。その後も攻めの気持ちと冷静さを貫き、1-0の緊迫した接戦をものにした。エースの活躍で息を吹き返した高松中央は、副将と大将も勝利で続いて栄冠を勝ち取った。

個人戦に続いて優勝した釜は昨年12月の全日本選手権で、東京五輪代表選手らも出場した中で3位に入った次世代のホープ。年上の強豪選手ら相手に健闘したことで大きな自信をつけたかと思いきや、「逆にプレッシャーになっていた」と苦笑いを浮かべて打ち明ける。「もともとネガティブなタイプ」とも自己分析するが、チームメートからの「大丈夫」という励ましを力に変えた。今大会中には場内の時計を意識的に見るなど、視野を広くすることを心掛けて平常心を維持。こうした得た経験は、今後の競技人生において大きな財産となるはずだ。

恩師にあたる崎山幸一監督は釜の成長ぶりに「誰が相手でも慌てず戦えるようになった」と目を細める。コロナ禍での大会開催にこぎ着けた運営関係者に感謝の気持ちを示したうえで、ディフェンディングチャンピオンとして今大会に臨むまで「優勝カップを毎日磨いていました」。ピカピカの優勝杯を高松に再び持ち帰った。

男子団体戦で優勝した浪速(大阪)の今井謙一監督は、「この状況下でも全国大会を体験できたことは、子どもたちにとって勝ち負けよりも大きなこと」と総括した。主将の南元希(新3年)は個人組手68キロ級で同僚の窪内志道との決勝を制し、団体戦でもチームの優勝に貢献。今井監督は南について、「1年間、試合をできなかった先輩たちの思いも胸に抱いていたのでは。コロナで苦労した中で人間的にも成長し、チームを大事にできるようになった」。精神的に大きくなった点を評価した。

敗れたチームも、全国から選手が集まるハイレベルな大会を通じて収穫を手にした。高校から空手を始めた選手も多く在籍する日体大柏(千葉)の花田好浩監督は、「経験の浅い選手にとっては特に、こういう舞台に立てたこと自体が貴重な経験」。OGで練習仲間でもある東京五輪代表の植草歩が“監督席”から指示や激励を送る中で、女子団体はベスト8に進出し、男子団体も2勝した。花田監督は「次は(4月の)千葉県選手権。またみんなで工夫しながら練習に励みます」。温かい目で教え子たちを見つめた。【奥岡幹浩】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)