羽生結弦(26=ANA)が、国際スケート連盟(ISU)公認記録では今季ベストとなる193・76点で20-21年シーズンを締めくくった。披露3度目のフリー曲「天と地と」で2位。コロナ禍で激動の1年の最後、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を復活させ、スケート人生の目標と公言するクワッドアクセル(4回転半)成功への光をつかんだ。1位は世界選手権3連覇のネーサン・チェン(21=米国)で203・24点。日本の順位点は合計78点で3位のままで、首位は91点のロシアが守った。

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羽生が、シーズン最終戦の最終演技でアイデンティティーを取り戻した。2本目の4回転サルコーが1回転になるなどミスが出ての2位。フィニッシュと同時に口をとがらせたが「悔しい気持ちはもちろんありますけど『良くやった』って自分に言ってあげたい内容だった」。そう言えたのは3回転半(3A)に復活の兆しが見えたからだった。

フリーの最終7本目のジャンプ。最も乳酸がたまる中で前向きに踏み切ると、自身にとって今季初の有観客の国際大会となった場内から万雷の拍手を浴びた。「ここ2戦、あまりにも3Aが決まらなくて、すごくショックを受けていた。悔しかった。3Aというジャンプに申し訳ないな、という気持ちでした」。出来栄え点(GOE)3・04を稼ぎ、ようやく気が晴れた。

目をつぶっても跳べるという代名詞。19年スケートカナダではGOE満点(3回転半は4・00点)を出したこともある得意技だが、言葉通り決まっていなかった。SP首位から逆転を許した3月の世界選手権(3位)。同じフリーで3回転半を2本とも失敗し、前日15日のSPも減点された。

3連続失敗の後、最終戦で2本とも成功。「世界選手権後の2週間は(隔離措置で)普通の生活じゃなかったし、食事も取れなかった。おなかも壊したり」。その中で3演技ぶりのGOE3点台。「最後の最後、世界選手権の記憶もよぎったけど、あの疲れた中で、わざとスピードは表現のため落として(難易度を上げて)いる中で、力を感じることなくスムーズに軸に入って、高さもあるジャンプが跳べた。今できるベストの3A」と自画自賛した。

総合得点も大台に乗る300・88点で公認では今季最高。それでも「久しぶりに『自分の3Aだ』と思うようなアクセルを跳べたな」と、また3回転半を語った。単なる復調ではない。「絶対にキレイに決めてやるんだ」と3回転半に挑んだ理由は「4回転半(4A)に続く道を、ここで示す」という、最終戦に課した課題があったからだった。

前人未到の王様のジャンプ。幼少時から憧れ「五輪のメダルより4A成功が目標」と言い切る。来季は、この「天と地と」に組み込む。壁は高い。五輪2連覇の羽生が「既に1000回以上はトライ」しても、まだ着氷していない。だから目指す。「4Aを入れた完璧な演技」が集大成。22年北京五輪にも届く光を今季最後のジャンプ=3回転半に見いだした。【木下淳】