ショートプログラム(SP)首位の坂本花織(21=シスメックス)が自身初、日本女子では8年ぶりの優勝を飾った。「今年は五輪の1カ月後に世界選手権があって、調整が今まで以上にきつかった。最後の最後までやりきれて、このメダルにはすごく価値があると感じています」と喜んだ。

最終滑走のフリーで155・77点を記録し、合計236・09点。SP、フリー、合計と全て自己ベストを更新した。日本勢の世界女王は伊藤みどり(89年)、佐藤有香(94年)、荒川静香(04年)、安藤美姫(07年、11年)、浅田真央(08年、10年、14年)に続く6人目(9回目)となった。

右拳を振り下ろし、坂本が喜びを爆発させた。演技後半のフリップ-トーループの連続3回転など、ジャンプを全て着氷。最後の3回転ループを降りると、会場が一気に沸いた。リンクサイドに1歩1歩進むと、緊張感のある表情から一転、中野園子コーチと笑顔で抱き合った。女子フィギュアの歴史に名を刻むのに、申し分のない演技だった。

トリプルアクセル(3回転半)、4回転の高難度ジャンプは組み込んでいない。それでも1つ1つのジャンプの出来栄え、要素間のつなぎ、振り付け、スケート技術などを磨き上げてきた。象徴が世界7人目の80点台を記録した2日前のSP。3回転半なしで80点台に到達したのは、18年平昌五輪金メダルのザギトワ、22年北京五輪金メダルのシェルバコワ(ともにロシア)に続いて3人目だった。

「今まで(3回転)アクセルなしで80(点)が出るのは、ロシアの子たちだと思っていた。いよいよ『未知の世界にようこそ』みたいな」

持ち前の明るさでニッコリと笑い「途切れないスピードっていうのは自分の持ち味。それが点数になって、評価されているのかなと思います」と胸を張った。

北京五輪では団体、個人で銅メダル。今大会はロシア勢が同国のウクライナ侵攻の影響で出場が認められなかったが、五輪でロシアの一角を崩し、世界最高峰の舞台で堂々と頂に立った。何度も滑り込んだ作品で、その存在を世界に示した。(モンペリエ=松本航)