5月にブラジルで開催された聴覚障がい者のためのオリンピック「デフリンピック」でメダルを獲得した仙台大出身の2選手が5月30日、同大で報告会を行った。陸上の佐々木琢磨(28=仙台大職員)は、男子100メートルで10秒75をマークし、悲願の金メダルを獲得。競泳の星泰雅(23=マイナビパートナーズ)は4×100メートル自由形リレーと同メドレーリレーで銀メダルに輝いた。

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スタートの瞬間から自分が1位だと確信していた。佐々木はレースを振り返って、「別の世界にいるようでした。自分の周りは青一色。一直線の道だけがオレンジに光っていた。その光に引っ張られるような感覚でした」。不思議な感覚に包まれ、オレンジ色のタータン(走路)に導かれるように走った。「今までの試合と決勝では全然気持ちが違った。すごくワクワクしていて、この世界、最高の気持ちに酔っている感じでした」と、当時を思い返して息を弾ませた。課題であった後半も走りは衰えず。加速を保って確信通り、世界の頂点に輝いた。

今大会決勝の隣のレーンには、憧れの選手がいた。大学2年時の13年、初出場したブルガリアデフリンピックで男子100メートル決勝を観戦。優勝したミコラ・ノセンコ(ウクライナ)の走りに魅了された。「ノセンコ選手に勝ちたいという気持ちが湧き上がった」。あれから9年、その時から渇望していた世界一。決勝の100メートルを走り終えた佐々木はノセンコから「自分は3位だった、優勝おめでとう」と声をかけられた。抱き合ってお互いの健闘をたたえながら、世界一の喜びをかみしめた。

「デフリンピックは人生の物語です」。陸上に没頭するきっかけとなったデフリンピック。その3度目の挑戦で世界の頂点に立った。デフリンピックだけでなくオリンピック、パラリンピックを通じて日本人初となる陸上男子100メートルでの金メダル。この快挙に佐々木は「今までの努力、そして皆さんの応援、サポートのおかげで世界一になれたと思います」と、周りの支えに感謝した。今後は次のデフリンピックと世界ろう記録10秒21の突破を見据えている。佐々木琢磨の物語はまだ終わらない。【濱本神威】

■星泰雅「報われた」銀メダル

自身2度目のデフリンピックで、銀メダル獲得に貢献した。17年トルコ大会では、チームは銀メダルを獲得したが、星は補欠。決勝の舞台で泳ぐことはなかった。自身も泳いでつかみ取った銀メダルに「表彰台に上がった時、ここまで水泳を頑張ってきてよかった、今までの努力が報われたなと感じました」と喜びをかみしめた。今後の目標は世界、アジア大会でのメダル獲得だ。リレーだけでなく個人種目でのメダルも視野に、世界と戦う経験を積んでいく。星は「25年のデフリンピックまでに技術を磨いて、世界一を目指して頑張っていきます」と力を込めた。