国際スケート連盟(ISU)が7日の総会で、フィギュアなどのシニア最低年齢を現行の15歳から17歳へ段階的に引き上げる議案を可決した。成立条件3分の2を上回る賛成100票(反対16票、棄権2票)の投票結果に歓声と拍手。ダイケマ会長は「重要で歴史的な決定だ」と受け止めた。

背景には、フィギュア女子で顕著な低年齢化の問題がある。18年平昌オリンピック(五輪)のザギトワや14年ソチ五輪団体のリプニツカヤは15歳で金メダル。成人女性へと体形が変化する前、ジュニアから上がった直後の少女たちが軽やかな体で高難度ジャンプを跳び、勝ってきた。

問題はその後だ。ザギトワは17歳で活動休止、リプニツカヤは引退まで摂食障害に苦しんだ。4回転ジャンプが必須の現代は負傷リスクも高まり、ロシアの養成法が「使い捨て」と非難されるケースもあった。特に女子の選手寿命が短い。

投票前には各国の代表者が声を上げた。五輪のメダル3個を持つ元選手は「子供や若いアスリートの健康を危険にさらす価値がメダルにあるのか」。一方でロシア側は、競技継続より稼ぎのいいアイスショー専念(引退)は自然との持論を展開したが、投票で100のNOを突きつけられた。

議論を再燃、加速させたのは2月の北京五輪だ。ROC(ロシア・オリンピック委員会)の15歳ワリエワに禁止薬物問題が発覚したが、世界反ドーピング機関(WADA)の規定で16歳未満は「要保護者」。処分を免れたため、スポーツ仲裁裁判所(CAS)から大会参加継続を容認された。ISUも国際オリンピック委員会(IOC)も打つ手がなく、今後も16歳未満であれば疑いがあっても不問の前例ができた。再発を防ぐため年齢制限改定の流れが勢いを増した。

4年前の総会では、オランダ協会が17歳以上への引き上げを求めたものの棄却された。今回はISU自ら提起したことが危機感を物語る。投票前の医学委員会で問題の科学的根拠まで示して理解を求め、約85%の賛成率で受け入れられた。

24-25年シーズンから17歳になる。日本女子で唯一4回転トーループを跳ぶ13歳島田麻央らが26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪に出場できなくなったが、日本は賛成した。スケート連盟フィギュア部門の竹内強化部長はかねて発育や発達、傷害予防を優先したい私見を口にし、伊東委員長も賛意を示していた。

投票前、あるスピーチが最大の拍手に包まれた。議論は長年交錯したが、ここにようやくの一致を見た。

「最も大事なのは子供たちの健康です。それ以外があってはならないのです」【木下淳】