18年平昌オリンピック(五輪)500メートルの金メダリスト小平奈緒(36=相沢病院)が、地元長野での現役ラストレースを有終のVで飾った。

この日の全種目が終了した後、セレモニーが行われた。照明が落とされ、スポットライトを浴びながら聖地のリンクを1周。前売り券が完売し、満員となった観客席に向かって丁寧に手を振りながら、ゆっくりと感謝の周回をした。

花束贈呈は、同じスピードスケートと自転車で冬夏7度の五輪出場を誇る日本スケート連盟の橋本聖子前会長から。レジェンド同士の記念撮影で笑顔を見せ、公私ともに心を通じ合わせてきた盟友の李相花(韓国)からは、ビデオメッセージが全て日本語で届いた。

「私たちがやってきた運動をやめることは、とても大変な決断だったと思います。私たちは目標を達成しました。これからは緊張しなくてもいいし、心配しなくてもいいよ。余裕を持って。いつでも韓国に遊びに来てね。これからも奈緒の未来を応援するよ」

親交のあるデュオゆず北川悠仁や、留学していたオランダの仲間からもメッセージが届いた。続いて会場にサプライズで登場したのは、同国で師事したマリアンヌ・ティメルさん。五輪の金メダル3個を持つ恩師から直接ねぎらわれた。

そして本人のスピーチとなった。

「最後まで残っていただき、皆さんのぬくもりを感じながらスケートリンクを去ることができて、本当に幸せです」

「忘れてしまう前にお知らせなんですが、私なりに小さなサプライズを用意しました。こんなにたくさんの方がいらっしゃることは予想できなかったので、皆さん全員に渡る分は用意できなかったんですけど、台風19号で被災されたリンゴ農家さんが、立派に育ててくださいましたリンゴ1000個を購入しました。食べていただきたいなって思います。あと、自分の今まで、現在、これからの思いをつづった小さな冊子も用意しました。できれば、お子さまたちに読んでいただきたいので、お子さまたち優先でお願いします」

「さて、今日なんですけれども、サプライズが多すぎて頭が真っ白になってしまいました。…。まず、ここで言いたいなと思ったのは、2歳の冬に初めてスケート靴を履きました。初めての出会いで、寒い冬も、どの大会にも応援してくれた家族に、この場を借りて感謝の気持ちを届けたいと思います。たくさん迷惑をかけることばかりで、やんちゃな末っ子でしたが、支えてくれたおかげで、スケート人生に終止符を打つことができました。本当にありがとうございました」

「小さなころから、たくさんの近所の方とか地元の方に小中高大と支えられ、楽しく滑ることができました。大学を卒業して、所属先が見つからなくて…(涙声で)上を目指すのに、このまま1人ぼっちなのかなと思ったんですけど、相沢病院の職員にしていただいて、所属として今日まで生きる道を開いてくださった相沢先生、本当にありがとうございました」

「本当にたくさんの人に支えられました。歩みを止めたら、ここで終わってしまうので、まだまだ続いていきますし、今度は皆さんの近くで歩みを続けていけたらなと思っています。本当にありがとうございました」

4月に現役引退を表明。半年間、この500メートル1本のために懸けてきた。試合では12組中11組目、満員の慣れ親しんだリンクに大歓声を浴びながら登場。37秒49の好タイムで、今年の北京五輪で銀メダルを獲得した高木美帆(28=日体大職)を0秒69上回って優勝した。【木下淳】