フィギュアスケートの世界選手権が20日(日本時間21日)、カナダ・モントリオールで開幕する。22年北京五輪銀メダリストで、左足首故障からの復帰シーズンとなる鍵山優真(20=オリエンタルバイオ/中京大)は今、「勝ちたい」と公言するまで自信もつけてきた。初優勝に挑む立場で掲げたのは、大谷翔平の金言。「憧れるのはやめましょう」の心で、3連覇がかかる宇野昌磨(トヨタ自動車)らライバルに勝ちにいく。【取材・構成=阿部健吾】

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その言葉は、約20分のインタビューの最後の最後に出てきた。鍵山は、話しながら思考を整理していく過程で、最も適切な表現に思い当たった。

鍵山 「憧れるのはやめましょう」、そんな感じですね! もちろん尊敬する気持ちはありますけど、試合になったら、みんな一緒ですから。

22年6月にエンゼルスタジアムを訪れて生観戦したこともある大谷が、23年WBCの決勝米国戦前に仲間に語ったあの言葉。それを引用した。「憧れ」とは宇野。今季途中から、意識して勝利への意欲を前面に出してきた。1月の4大陸選手権では有言実行の優勝。その姿勢は、宇野と戦う舞台であっても、変えない。

鍵山 昌磨君も「あっち側」の人です。でも…。

鍵山はその存在を「レジェンド」とする。シニア転向後に戦ってきた北京五輪覇者のネイサン・チェン、羽生結弦と同じ領域に、宇野を置く。2回目の世界選手権で銀メダルだった22年大会。その優勝を目の当たりにし、意識の変化が生まれた。

鍵山 集中力のすごさ、プログラムの完成度。もっともっと遠い存在になってしまったけど、だからこそ、近づきたいっていう気持ちが出てきました。

初出場だった19年大会も同じく銀だった。優勝したのはチェン。今でも、思い描くという。

鍵山 「イマジナリーネイサン」がいます。結弦君も同じです。記録に1点でも近づきたいって。ルールは変わってるけど、自分ができる範囲で。

その2人とは、もう戦えない。だから、想像上。しかし宇野は違う。「憧れをやめる」舞台がある。

鍵山 お互いが120%を引き出して、その上で、やっぱり優勝したいです。

今考える、100%を超える演技とは-。

鍵山 「一瞬」ですね。

今季のフリーを手がけた世界的振付師のニコル氏からの金言がある。

鍵山 「変なポーズが一切ないように。シンプルな形でもすごく美しく見てもらえるように」と。一瞬たりとも気を抜けないです。

試合だけではない。練習から見られることを意識するようになった。カメラマンが撮ったどんな写真でも、絵になりたい。

鍵山 曲かけ以外の部分でも、良い表情などを抜いてもらえるように意識してるし、1分1秒意識してるからこそ、プログラムの出来にもつながってくるんじゃないかな、って。

年明けの4大陸選手権で最も喜んだのはジャンプの出来栄えではなかった。フリーではジャッジ9人中6人が満点をつけたステップシークエンスだった。

鍵山 今季、特に振り付けなどで意識してきた見せ場。「頑張ってきてよかったな」って。

左足首のケガによる長期離脱からの復帰シーズン。新たな姿を氷上に刻みたい一心で取り組んできた進化だった。再発防止で慎重に進めたシーズン序盤から、「勝ちたい」と言える域まで積み上げてきた。

鍵山 一番大事なのは、常に挑戦者という気持ちを持つこと。4大陸と同じような気持ちで臨むこと。

宇野だけではない。クワッドアクセル(4回転半)を操るマリニンもいる。だから、あえて声に出して決意する。

鍵山 昌磨君は伝説です。すごい強い存在にはなってくるんですけど、僕もそういう存在になりたいってずっと思ってます。優勝したいです。

世界一を決める舞台で、「憧れ」は無用だ。

◆展望 シングルは、男子の宇野昌磨、女子の坂本花織ともに日本勢初、史上8人目の3連覇がかかる。宇野の対抗筆頭はマリニン(米国)で「4回転の神」の異名通り、直近の練習では4回転トーループから4回転半の連続技も披露して話題となった。鍵山、シャオイムファ(フランス)が続く。68年フレミング(米国)以来、56年ぶりの快挙に挑む坂本の対抗は、欧州女王ヘンドリクス(ベルギー)。千葉、吉田の初出場組もメダルを狙う。ペアでは2連覇がかかる「りくりゅう」こと三浦璃来、木原龍一組に注目が集まる。木原のケガで長期欠場があった今季。復帰戦の1月の4大陸選手権では2位となった。日本勢初優勝を遂げた昨年に続く金メダルを狙う。