敗れた準々決勝の南アフリカ戦を、SH茂野海人(28=トヨタ自動車)はスタッフジャージーを着て見守った。グラウンドを去る際に、選手やスタッフらで作った大きな円陣。人目もはばからず、表情をゆがめて大粒の涙を流していた。

遅咲きで迎えた大舞台だった。島根・江の川高(現石見智翠館高)、大東大では主力も、各世代の日本代表には選出されず。転機は13年。NECに入団し、元日本代表SHの辻高志コーチと出会った。パスの判断、時間帯ごとの状況判断など、マネジメント能力を徹底して鍛えられた。16年6月にようやく日本代表デビュー。「初めてSH専門の人に教えてもらった。辻さんに出会えたから今の自分がいる」と感謝している。

8月28日にワールドカップ(W杯)日本代表入りが決まると、電話で報告した。「日本代表に入りました。ありがとうございました」。16年にNECを退団して会社員になっていた辻氏に、約3年ぶりの連絡だった。「真っ先に思い浮かんだ人」に感謝の気持ちを伝えないわけにはいかなかった。

大会前には「ENJOY! 試合を楽しめよ」と辻氏からエールをもらった。しかし、開幕前の南アフリカとの壮行試合でミスがあったことも影響してか、W杯は全試合でベンチ外。8強入り後の会見で「試合に出られてない部分で、とても悔しい気持ちがある」と率直な思いを吐き出していた。

ようやくつかんだ桜のジャージー、恩師への思い、自分へのふがいなさ。さまざまな思いが、涙に詰まっているように見えた。その全ての思いを背負い、4年後の大舞台ではグラウンド上での笑顔が見てみたい。【佐々木隆史】