<2005年11月28日付日刊スポーツ紙面>

 横綱朝青龍(25=高砂)が、最高の05年を年間84勝目で締めくくった。前日14日目に史上初の7連覇、年6場所完全制覇、そして年間最多勝新記録を達成した朝青龍は、結びの一番で大関千代大海(29)を寄り切りで下し、通算15回目の優勝を有終の美で飾った。表彰式では、01年夏場所以来の観戦となった小泉首相から、内閣総理大臣杯を授与され感激の面持ち。生まれて初めて胴上げも体験するなど、夢のような1年を至福の瞬間で終えた。

 右のかいなを返し千代大海を土俵外に突き飛ばした瞬間、朝青龍の年間84勝が確定した。さあ、朝青龍の人間ドラマの始まりだ。背中から汗をにじませ花道を抜ける。そこにはタミル夫人(25)が、10月に生まれた長男ジャミアンドルジちゃんを抱いて待っていた。抱き上げほおに2度キス。イチンホルロちゃん(2)にもほおずり。まだ顔は緊張感に満ちていた。

 その場で付け人から花束を受け取ると、泣きそうな目で花道を振り返った。この日が最後の立行司、木村庄之助がゆっくり歩いてくる。両手で花束を抱え、深く頭を下げた。「長い間ご苦労さまでした。ありがとうございました」。庄之助の目も潤む。この日のために自分で勝った花束に、この日勝ち取った懸賞袋を数枚、記念に添えた。万感の思いを込めて、庄之助に御礼と別れを告げた。

 今度は表彰式用の晴れやかな笑顔で土俵へ。あこがれの小泉首相から内閣総理大臣杯を手渡された。「新記録!

 大記録!

 見事だ!

 おめでとう!」。祝福の言葉に、いつもの目を細めた笑い顔で、よろける首相を気遣いつつ、ガッチリと杯をつかんだ。

 そして最後の最後に、小泉首相もビックリの?

 サプライズが待っていた。闘牙、高見盛ら一門の関取衆と付け人が東の支度部屋の外で待っていた。驚く間もなく、有無も言わさず宙に放り投げられた。前代未聞の胴上げだ。3回、思い切り両手を広げて味わうと言った。「最高だ。プロ野球選手はこういう思いをしてるんだね」。場所前、ソフトバンク王監督と会食し、胴上げの素晴らしさを聞いた。同席した付け人は、目を輝かせた朝青龍の表情を忘れず、記念の日に心憎い演出を用意していた。

 できることはすべてやった。話すことも尽きた朝青龍は短く言った。「満足しています。付け人や周りの人間のおかげです。弱冠25歳なんで、これからも走ります」。燃え尽きた感傷など、どこにもない。獲物を狙う激しい気性が、なえることはない。【井上真】