<大相撲技量審査場所>◇千秋楽◇22日◇東京・両国国技館

 故郷に届く白星を、三段目の大波(19=荒汐)が千秋楽で手にした。土佐光を送り出しで破って2勝目。「最後に勝てて良かったです。家にも、いい報告ができます」と笑顔をみせた。場所前にインフルエンザにかかって体調を崩した。2つ目の白星に「今場所は特に頑張らなくちゃと思っていたんですけど…」と苦しかった場所を振り返った。

 福島市内でちゃんこ店を営む父政志さん(44)は、元幕下若信夫。50年代に活躍した祖父元小結若葉山の名を冠した店は本格的なちゃんこ鍋で人気だが、震災の被害は大きかった。2階やトイレの壁が壊れた。1カ月後に1階だけで営業を再開したが、原発事故の不安と自粛ムードで客足は半減。「父からも福島を元気にしてほしいと言われています」と大波は言った。

 「被災地へ届けたい」という思いで臨んだ今場所だが、気持ちは空回り。同じ福島市出身の幕下双大竜が再十両を決め、同部屋の幕下福轟力が勝ち越したのとは対照的で「1人、乗り遅れましたね」と言った。90キロという軽量のため、三段目ではパワー負けも多かった。「体重を増やすこと。ずいぶん食べているんですが」と課題を口にした。

 震災から2カ月以上がたち、被災地の復興は進んでいる。しかし父政志さんは「原発の問題もあるし、先が見えない。それが不安です」と話した。以前の生活を取り戻すのがいつになるのか、何年かかるのか。まだまだ道のりが長いことは間違いない。土俵からエールを送るのも、今場所だけではない。来場所も、その次の場所も、力士の活躍が故郷を元気にする。

 大相撲の場内放送では、しこ名と所属部屋の間に出身地が読み上げられる。力士も出身地を意識するし、出身地も力士を応援する。「今場所はダメだったけれど、来場所頑張ります。父に勝ち越しを報告したいんで」と大波は言った。まだ19歳、被災地の復興と同じように、先は長い。「これからも、福島を思って土俵に上がる。故郷のために、いい成績を残したい」。被災地を思う大波の心、来場所以降も長く福島へ、東北に届け-。【荻島弘一】

 ◆大波渡(おおなみ・わたる)本名同じ。1991年(平3)12月29日、名古屋市生まれ。9歳から相撲を始め、学法福島高では県大会優勝。09年11月に初土俵を踏み、最高位は東三段目48枚目。弟湊さん(17)渥さん(16)も学法福島相撲部。182センチ、90キロ。