チームの連敗を止める、マツダスタジアムでの勝利を締めくくったのは、広島黒原拓未投手(24)だった。16日のDeNA4回戦。9点をリードした9回を2者連続含む3三振で締め、防御率は2・57となった。

今季初登板を終えた時点で、黒原の防御率は「記録なし」だった。開幕2戦目の3月30日DeNA戦に先発も、わずか3球で危険球退場。死球を与えた相手が前日に華々しくデビューした新人度会だったこともあり、敵地で大きなブーイングを浴びた。

試合後に宿舎に帰ると1人、宿舎の部屋にいた。度会に対してはもちろん、負担をかけた中継ぎ陣にも申し訳ない気持ちで押しつぶされそうだった。先発に送り出してくれた首脳陣の期待を裏切った自分への怒りのような感情もある。つかみ取ったマウンドで、まったく力を発揮できなかった悔恨も入り交じる。さまざま感情は鉛のように重かった。

「誰にも会いたくないだろうから、(宿舎の)食事会場にも行っていないだろうなって。でも、変に気を使われるは嫌だと思ったので“飯、行くか?”って連絡したんです」。

寮生活をともにする益田が、部屋でふさぎ込む黒原を宿舎の外に連れ出した。近くの中華料理屋でチャーハンをつまみながら、寮での時間のようにたわいもない話に終始。2時間程度だったが、宿舎に戻るころには「口数はだいぶ増えたと思う」と振り返る。

大瀬良からも、LINEをもらった。球場ではチームメートや首脳陣、裏方もいつもと変わらず声をかけてくれた。特別なことはなく、その“いつも通り”が黒原の心を軽くした。

首脳陣から与えられた2度目の先発、4月7日中日戦は、取り組んできた成果を発揮して5回1失点と結果を残した。新井監督も「ファームでスタンバイしておくのがもったいない」と評価し、先発の柱である森下の復帰後も中継ぎとして1軍に同行することとなった。

12日の巨人戦に続き、3球降板となったDeNA相手にも無失点投球を見せた。「何してんだ、という思いがあった。でも、あのとき、みんなの優しさを感じました。今は自信を持って投げられているし、今日も腕を振って投げられた」。取り戻した力強い腕の振りで、黒原は苦い記憶をも振り払った。【広島担当=前原淳】