日本ハムの大卒ドラフト2位、期待の強肩捕手・進藤勇也(22=筑陽学園~上武大)の実戦をじっくり見させてもらった。

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2月の名護キャンプで進藤の実戦を見たが、肩はいい、キャッチングも受ける姿がとても良く、開幕スタメンもあり得るのではと感じていた。最後の最後に2軍合流となったが、ここからどんな課題を持って試合経験を積むのか、注目していた。

まず、イニング間のピッチング練習の最後に見せていたセカンドスローは、とても良かった。捕ってからスローイングまでの動きも機敏でスムーズ。肝心の送球もしっかり制球して、いいボールだった。もちろん肩が素晴らしく、期待は膨らむ。

今の時代、捕手も打たないとレギュラーは厳しい。守備面において進藤はアベレージ以上のものを持っており、バッティングでプロの投手のボールに慣れてくれば、多少時間はかかっても、いい捕手に成長するだろう。

そんなことを考えながら試合に見入っていたが、5回に違和感を覚えた。2死一、三塁で打席には左打者。進藤は投球を受けると、座ったまま返球していた。それも連続で。キャッチングして座ったまま投手に返球していた。

何かしっくり来ない。座ったまま返球を続ける動作が、どうにもふに落ちない。と言いつつ、ルーキー捕手に対するあら探しになってもいやなので、自分の現役時代を思い返してみた。走者一、三塁で、打席に右打者が入れば、捕手から三塁走者は見えない。左打者ならば一塁走者は見えない。

どちらかの走者は目視しづらいのだから、やっぱり立ち上がって返球していたのではと、必死に思い返していた。それでも、何となく釈然としないので、ちょうど隣のチーム関係者がタブレットで1軍の試合を見ていたので、一塁か三塁に走者を置いた場面で、捕手は座ったまま返球しているか確認しようと思ったが、ぴったりの状況がなく、どうにもすっきりしなかった。

ただ、私が反射的に違和感を覚えたのは、意図的なものではなく、変な印象を受けたことは間違いなかった。私はこう感じた。一、三塁に走者がいて、座ったまま返球することは、あるにはあるかもしれない。

しかし、それを連続してしまうと、一塁走者、三塁走者ともに、そこになにがしかの突破口を見いだそうとするのではないだろうか。これはあり得ないことではない。座って返球を逆手に取り、ディレードスチールを仕掛けてきたらどうだろう。

このケース、進藤から一塁走者はほぼ見えない。ディレードスチールを仕掛ければ、進藤としてはすぐに反応して立ち上がり、二塁に送球したとして、まず間に合わないだろう。そして慌てた時、送球がそれて暴投となれば、三塁走者の生還を許してしまう。

これは仮定の話に、さらに仮定を加えることになり、本当に最悪のケースを想定した話になる。だとしても、これが試合終盤で同点や、1点リードの場面ならば、座って返球することへの違和感はさらに増すだろう。

進藤は三塁走者にはしっかり視線を送っていた。警戒する注意力はあったと思う。ならば、1球は座って返球したとしても、続けて同じ動作を繰り返さない用心深さは、この場面で必要ではないか。

捕手は1人だけ反対方向を向いている。従って、たとえば二塁に走者がいる時は、捕手から投手への返球が万が一にもそれてはいけないため、セカンドかショートが二塁ベースにカバーにはいる。そうした予測できない状況に備えたカバリングの意識を、内野陣に声がけやジェスチャーで常に促す役割を担っている。

何があるか分からないと、常に気を配り、不測の事態に備える。それが捕手としては絶対に必要な気質と言える。進藤からすれば、ここまで細かいことを言われたら、逆に神経過敏になってしまうかもしれない。それも理解できるが、1点を巡りチームの勝利、球団の順位が決まるのが、勝負の世界の習わしだ。

与えなくていい1点につながる不安要素は、先んじて察知し、自分で矯正していくこともプロの捕手としては大切なことだ。もしも、この指摘に接することがあれば、「ああ、そういうこともあり得るかもしれない」と、学んでくれたなら、細かく指摘した甲斐がある。

イニングが終わるたびに、投手のもとへ歩みより必ず会話をしていた。そのままベンチでも打ち合わせをする姿は、捕手として必要な気配り、気遣いの持ち主だと感じさせてくれた。

私が指摘した場面が失点に絡んだわけでも、明らかな注意力散漫だったわけでもない。そこまで細かいことを言わなくても、という声も聞こえてきそうだが、私の経験上、気になったため、ここは遠慮せずに指摘させていただいた。(日刊スポーツ評論家)