「伊勢大明神」が4強入りへ導いた。7回から途中出場した東北・伊勢隼内野手(3年)が延長10回2死満塁から中前へサヨナラ安打を放ち、仙台商に7-6で勝利した。新チームではクリーンアップを任されていたが、昨年秋に腰を負傷。今春は代打の切り札として勝負強さを発揮している。縁起の良い名字のように試合に向けて行う験担ぎも成功。熱戦を制し、東北大会出場に王手をかけた。

 神にすがりはしなかった。同点の10回裏2死満塁。打席に向かう伊勢は落ち着いていた。「打とうと思うより、いつも通り。練習でしてきたことを出そう」。カウント0-1からの2球目。内角の直球を振りぬく。打球は力強く二遊間を抜けるサヨナラ安打。あっという間に歓喜の輪ができる。中心で主役の「お伊勢様」は仲間にペタペタと触られながら、ほほ笑んだ。

 苦難を天は見ていた。今大会の背番号は14。途中出場の切り札だ。昨秋は3番か5番を任される主軸だった。だが秋季東北大会後に腰椎分離症を発症。冬はリハビリを行い、今年の3月からようやく全体練習に復帰した。1年生に定位置を奪われたが「いつ出されても良いように最高の準備をしている」と腐らなかった。黙々と練習を行い、任命されたのは内野手リーダー。我妻敏監督(33)は「ベンチで信頼できる存在。最後の最後まで取っておきたい。代打の切り札です」と評価。野球の神様を振り向かせる力がある。

 勝利へ、体と心は清めていた。とっておきの験担ぎは五厘刈りと無精ひげ。試合2日前に全員が頭をバリカンでそる。「チームが一丸となって戦える」と気合が入った。一方は顔の下半分には無精ひげ。練習試合で生やしていたところ打撃が好調だった。この日は3日伸ばした状態で「仲間からヒゲを生かして重圧をかけたら」と金剛力士像のように厳しい表情で相手をにらみつけた。地区大会では仙台商に敗れ、敗者復活。2度も負けられなかった。

 突き動かすのは期待に応えたいと願う心だ。「周りにこいつならば打ってくれるとか、信頼感を持たれるようになりたい。(勝負どころは)燃える。監督の期待に応えられるように1本出したい」と意気込む。目指すは代打の神様ならぬ、勝利を運ぶ「伊勢大明神」。サミットよりも注目を集める伊勢が東北にいる。【島根純】