羊ケ丘にそびえ立つクラーク博士の銅像から約2キロ、北の大地札幌ドームで「大志の一撃」が出た。4-1の3点リードで迎えた2回表、2死満塁。10年9月29日以来、先発出場の楽天中川大志内野手(24)は、いつもの深呼吸をしてからバットを上段に構えた。体につけた香水の甘いにおいを吸い込み、リラックス。「力みがなくなるんです」の狙い通り、内角高めのスライダーに186センチ、92キロの体がくるりと回った。力強い打球はワンバウンドで左翼フェンスを直撃。プロ初の長打は、ダメ押しの2点適時二塁打となった。

 2日前に1軍へ上がったばかりの背番号56が、5月6日に躍動した。大久保博元監督(48)には予感があった。「ファームで調子が良かったので、旬を逃す手はないと。そう思っていたら、いい仕事をしたね。連戦中はあの場面で一打が出なくて苦労した。あれで主導権を握れた」。イースタン・リーグ打率トップ3割6分8厘の勢いを信じていた。

 08年ドラフト2位での入団後は、14年終了までの6年間で11試合3安打と苦戦続き。そこで昨年11月、オーストラリアのウインターリーグへ約2カ月の武者修行に出た。単身で、自らの意思で渡った外国の地。一芸に秀でた選手に囲まれ過ごす中で、自身の持ち味であるフルスイングの重要性を再確認した。「オーストラリアの経験は本当に大きかった。今日も、自分のスイングができた結果です」と振り返る。迷いなく振り切った結果が今日の一打となった。

 海外の地で自分を見つめなおした右の大砲候補が、北の大地で期待に応えた。中川は「まだ1本だけ。もっとチームに貢献したい」と、さらなる大志を抱く。勝負の7年目を迎えた24歳に、ブレークの予感が漂ってきた。【松本岳志】

 ◆中川大志(なかがわ・たいし)1990年(平2)6月8日、愛知県豊橋市生まれ。桜丘高から08年ドラフト2位で入団。10年9月の日本ハム戦で初出場初安打。11年秋に右膝を痛め、一時は育成選手となった。イースタン・リーグでは11年に打点王。13年は本塁打王と打点王の2冠に輝いた。186センチ、92キロ。右投げ右打ち。