首位攻防第1ラウンドで、野球小僧が復活弾を決めた。巨人村田修一内野手(34)が2回、決勝の4号逆転2ランを放った。前日9日には、若手時代に自分への応援歌とした昭和歌謡の名曲、「野球小僧」の歌詞で再出発を宣言。その晩には、家族とのたこ焼きパーティーで「タコ=無安打」を焼く験担ぎで迷いを消し去った。家族が観戦する前で、4月30日中日戦以来の1発で4連勝に貢献。打撃不振で7番に座る男が意地を見せ、巨人打線が厚みを増した。

 野球小僧が泣いた。決勝の逆転2ランで上がったお立ち台。村田は約2カ月ぶりに観戦した息子3人の話題を振られると、言葉に詰まった。約20秒、沈黙。「いつもパパの本塁打が見たいと言ってくれる息子の前で…」。感謝の思いを伝えた語尾が、大歓声でかき消された。うれし涙が、目頭にあふれていた。

 雑念を捨て、この一戦を迎えた。開幕からの不振、ルーキー岡本らの成長、新外国人獲得へ調査中の情報、打順は7番…。不安や危機感に襲われる日々に、いつしか笑顔は消え、鬼の形相になってしまっていた。

 懐かしい歌詞で目が覚めた。9日の練習後。若手のころ、苦しいときに聴いて自らを奮い立たせてきた昭和歌謡の「野球小僧」を読み込んで、原点に立ち返ると誓った。その夜。村田家の夕食は「たこ焼き」だった。テーブルの真ん中に置かれたたこ焼き器を、妻と3人の子どもで囲んだ。一心不乱にクルクルと作り、100個以上の「タコ=無安打」を焼いた。

 子どもを寝付かせて静まりかえったリビングで、残りをつまんだ。冷めたたこ焼きに、若手時代のハングリーな日々が、よぎった。「パパのホームランが見たい」と無邪気に笑う息子の顔も、浮かんだ。「ずっと自分がどうしたら打てるかって考えていた。でも、明日からはどうやったらチームが勝つかを考える」。タコを焼く験担ぎの儀式も終え、戦闘態勢を整えた。

 だからこそ無心で臨めた。試合前練習から、何度も打球にダイブする、がむしゃらな姿があった。約2カ月半ぶりの1発にも「自然と反応できた。久しぶりの感触でした」と納得しつつ、ガッツポーズも笑顔もなかった。「けがもあったしチームに迷惑を掛けている真っ最中。集中力を切らさずにいかないといけなかった」。助言をくれた高橋由ら周囲の助けがあってこそとも分かっていた。チームのために、朗らかに戦う。巨人に、頼もしい男が帰ってきた。【浜本卓也】

 ▼村田が4月30日中日戦以来、自身27試合ぶりの1発。村田の26試合本塁打なしは、プロ1年目の03年に14号から15号にかけて記録した30試合なしに次ぐ2番目の本塁打ブランクだ。この日は逆転2ランで、村田の逆転弾は13年9月7日阪神戦以来、2年ぶり。今季の巨人は逆転本塁打が少なく、前日まで5月14日アンダーソンの1本(12球団最少)しかなかった。