広島前田健太投手(27)が6年連続の2桁勝利を達成した。本拠地マツダスタジアムでの阪神戦。最速151キロの直球や宝刀スライダーだけでなく、フォークボールでも阪神打線を翻弄(ほんろう)。8回無失点での10勝目。メジャー6球団の関係者が見守る中で快投した。エースの奮闘で、3位巨人に1・5差、首位阪神にも4・5ゲーム差だ。

 ある-。そう思わせるだけで前田の勝ちだ。さらに打ち取るのにも役立つのだから幅はまた広がる。前田は4回先頭の福留と対戦すると“新球”フォークを8球中3球投じた。「投げた瞬間ボールになるボールもあったし、これ、という感覚もない。(手応えがあったのは)1球くらいですかね」。ただ10球前後を投じ、阪神打線を困惑させたのは事実だった。

 春季キャンプでも挑戦し、一時は習得を断念したボールだった。だがキャッチボールの中で感覚をつかむと、現役時代フォークが武器だった小林投手コーチのアドバイスで一気に近づいた。「抜く感覚ではなくてしっかり投げる。フォークもリリースはある」というイメージが、しっくりきた。異例とも言えるこの時期の新球習得も「もっといい投球ができるかもしれない。びびっていたら成長できない」と迷いはなかった。

 もちろん最大の武器は最速151キロをマークした直球とスピード、変化ともに自由自在の宝刀スライダーだ。8回には「力を入れた。コースを気にせず力でいった」とギアを入れ替えた。直球で8番梅野、代打上本から連続三振。鳥谷は歩かせたが、代打狩野を左飛に打ち取るとグラブを大きくたたき叫んだ。8回4安打無失点。10勝目で6年連続2桁勝利とした。

 10勝。プロ入り当初は目標だった。そこから最低限になり、通過点になり、義務になり、今は言葉に表す必要もなくなった。「続けられたということはよかった。周りも当然と思ってくれている。これからの積み重ねが大事」。恒例のお立ち台でのTシャツプレゼントでは、白地に大きく10と描いた。「常昇でいきましょう!」。これからの戦いに目をやった。

 チームは4連勝。3位巨人と1・5、首位阪神と4・5ゲーム差。緒方監督も「マエケンがよく投げてくれた」と最敬礼だ。コイ再進撃の合図を、エースが高らかに鳴らした。【池本泰尚】

 ▼前田が10勝目。これで10年から6年連続で10勝以上をマーク。2ケタ勝利を6年以上続けたのは、06~11年ダルビッシュ(日本ハム)以来で、セ・リーグでは87~92年桑田(巨人)以来。広島では50~57年長谷川の8年連続、78~88年北別府の11年連続、86~91年川口の6年連続に次いで、24年ぶり4人目。

 ▼今季の前田はマツダスタジアムで6勝1敗、防御率1・65で勝率8割5分7厘。前田の同球場でのシーズン最多勝利は14年の9勝(3敗)だが、防御率は12年の1・69、勝率は昨年の7割5分が過去最高。本拠地では今季、投球に磨きがかかっている。