阪神岩田稔投手(31)は一塁ベースを駆け抜けると、苦虫をかみつぶしたように表情をゆがめた。1点を追う5回1死一、二塁での送りバント。初球の高めスライダーを三塁方面に転がそうとしたが、角度が甘くなった。広島前田にバックハンドで素早くさばかれ、二塁走者伊藤隼が三塁で封殺される。そのまま一塁に転送され、併殺という最悪の形で数少ない好機はついえた。

 「マエケンがうまいのは分かっていること。決めきれなかった自分が悪い」

 長年、課題にあげられていたバント。2月の沖縄キャンプ中から風岡守備走塁コーチらの指導を受け、改善に取り組んできた。3回1死二塁ではきっちり犠打を決めていただけに、痛恨の失敗に悔しさが募る。7回120球を投げ、6奪三振4安打1失点で7敗目。好投実らず前田に投げ負け「それが勝負の世界なので」自らを責めた。

 価値ある粘投ではあった。時計の針を戻したい場面は1度だけだった。2回1死、5番エルドレッドへのカットボールが真ん中に入り、左中間最深部に先制ソロを運ばれた。「悔しいです」。それでも3回以降は無失点だ。この日最速147キロの力強い真っすぐで内角を突き、4戦連続となる無四球投球でマウンドを下りた。

 誰も責めることができない内容。ただ、シーズン終盤のタイミングで、勝利に導けなかった事実は重い。次回は中5日で2日広島戦に向かう予定。舞台を甲子園に移し、再び前田と投げ合う可能性が高い。「投球自体は自分のモノを出せた。これを続けていくしかない」。雪辱のマウンドに向け、早くも気合をみなぎらせた。【佐井陽介】