やっと笑えた。本拠地1万9058人のファンに囲まれて、お立ち台の楽天釜田佳直投手(21)から感情があふれ出した。「本当にうれしい。手術の後は、この試合を求めてリハビリをしてきたので…」。1軍マウンドは13年10月13日以来685日ぶりで、白星は13年9月12日以来716日ぶり。先発勝利からは高卒1年目で7勝目を挙げた12年9月18日を最後に、1074日間も遠ざかっていた。「ただいま!!」。昨年3月にトミー・ジョン手術のメスを入れた右肘を高々と上げて、思い切り笑った。

 人知れず苦労を重ねた684日分の思いを込めて、右腕を振った。初球は148キロ直球。初回だけでこの日最速150キロを5度も計測した。「今までの思いを1球1球にぶつけようと思っていた」。先のことは考えず、力の限りに飛ばした。

 5回には4点を返され、なお2死一塁のピンチ。球数は90を超えて握力が落ち、腕も重い。「1軍のマウンドは疲労感が全然違った。へばりました」と直球は140キロを割りかけた。それでも西武斉藤への3球目は141キロの直球勝負。手術後の3カ月間はボールを握ることさえ許されなかった。先の見えない不安と闘った日々を思い出せば、疲労など問題ではなかった。結果は投ゴロ。一塁への送球を終えると、やり遂げた充実感に包まれた。

 1年目の活躍だけで終わるわけにいかなかった。「年の近い先発投手の活躍をテレビで見て、自分もあの場所に戻りたいと思った。それがなかったら、途中でリハビリを投げ出したかもしれない」。悔しさは1軍で力に変えると決めていた。「5回4失点では復活といえない。次こそ復活できるように頑張ります」。完全復活への、大きな1歩目をしるした。【松本岳志】