将も、ナインも、一丸となっての執念勝利や。阪神和田豊監督(53)が、延長10回のピンチで呉昇桓の迷いを消すためマウンドに向かえば、守護神もきっちり応える快投。そう、今季掲げたのは「as one」の精神。一体となってVへ突き進むだけだ。また、この日の勝利で和田監督は虎の指揮官歴代単独7位の268勝を挙げた。

 指揮官は思わずベンチから身を乗り出していた。サヨナラ勝利を告げるマートンの打球が左翼の芝生を転々とする前にベンチを立っていた。延長11回の死闘を制した和田監督は「全員」での勝利を強調した。

 和田監督 最後の最後にマートンが決めてくれた。本当にここしかないというところで決めてくれた。全員野球というか。打線もよく追いついたし、投手も苦しいところでよく踏ん張ってくれた。

 8月末の東京ドームで3連敗した王者巨人との本拠地直接対決。今季最初にして最大の正念場だった。選手はもちろん、指揮官も執念の塊となった。延長10回。2死二塁で呉昇桓が村田を迎えた場面、和田監督がベンチを出た。

 「勝負だ!」

 一塁が空いている状況だった。選手の迷いを消し去るため、あえて自ら足を運んだ。指揮官が直接マウンドに向かうのは6月以来、今季3度目のことだった。2イニング目を力投する守護神と顔を突き合わせて背中を押した。

 和田監督 あそこは迷わせてはいけない。次のことも計算しながらの場面なんだが、勝負ということ。

 攻撃でも熱くなった。1-1で迎えた6回、ベンチ前の円陣に指揮官自ら加わった。打撃コーチの指示の後、選手の輪に突入して気合を入れた。

 采配にもメッセージが込められていた。8回、新井が二塁打で出ると、キャプテン鳥谷に送りバントを指示した。結果的に失敗となって得点には結びつけられなかったが、ゲームを通して狙いは明確だった。3回には先頭伊藤隼がヒットで出ると8番鶴岡に送りバント。2死になってでも得点圏へ進める作戦だった。藤浪のヒットでチャンスが拡大し、先制につながった。ここまで対戦成績0勝3敗のマイコラスに対して地道に、愚直に攻めていった。1つでも先の塁へ-。目の前の1点にこだわり抜いた。3つの犠打がすべて得点に結びついた。

 和田監督 これはもうベンチだけではなくて、全選手、全スタッフがこの一戦にかける気持ちが強かった。何としても取りたいゲームだった。ビハインドからでも何とかという気持ちが最後まで出ていた。その中でひっくり返せた。これを自信にして、あと19試合、戦っていきたい。

 天敵マイコラスから2点ビハインドを追いついての勝利。この巨人戦前、異例の全員練習を招集した和田監督は“青空演説”で心のスイッチを入れろと号令をかけた。それをチームが体現したような勝利だった。【鈴木忠平】