天敵左腕を一振りで沈めた。阪神新井良太内野手(32)が、チーム今季5戦0勝3敗と苦しんでいた中日大野から、決勝弾を放った。2回無死一塁で、先制の4号2ランをバックスクリーン左に運び去った。チーム9試合ぶりの1発。すっきりと連敗脱出だ。

 まさに一振りだった。2回無死一塁。初球だ。外角ツーシームをフルスイングで仕留めた。ポーンと放り投げられたバット。高々と舞う打球。新井らしさが全て詰まった一撃だった。

 「積極性と自分のスイングをやろうということだけ心がけてやりました。序盤に(点を)取れたというのは良かったんじゃないかなと思います」

 チームは大野を相手に試合前まで今季5戦3敗。対戦防御率は0・69だった。自身も5試合で6打数無安打と手も足も出ていなかった。それでもゴメスの遊失で隙をみせた相手を、逃さなかった。「甘い球を一発で打てたというのが良かったと思います」。8月19日巨人戦(東京ドーム)以来となる決勝の4号2ラン。ベンチ前でナインから手荒い祝福を受けた。

 チームメートを思う心は随一だ。2月の春季キャンプ上旬。新井は腰痛の影響で2軍安芸キャンプに参加していた。練習終わりの宿舎前。そこには去年10月に自身と同じく腰痛を発症した2年目の横田がいた。後輩に自分と同じケガで苦しんで欲しくない。その思いから12歳年下の後輩に湿布を譲った。横田は「良太さんみたいな人に気を使ってもらってありがたいです」と話す。新井の熱い思いは後輩たちに慕われ、尊敬されている。この日の試合後には背番号32はかみしめるようにこうも語った。

 「狩野さんや上本の思いというとあれですけど…。すぐに上がってくれると思う。2人の気持ちというのも僕は持って常々やってます」

 優勝戦線で無念の負傷離脱をした仲間のために。その思いは誰よりも大きく、誰よりも強い。

 「とにかくその日その日じゃないですかね。1試合1試合、1球1球今まで以上に気持ち入れて、熱くみんなで戦っていきたいと思います」

 一振りで流れを変え、一振りで活気を与える。チームにとっても9試合ぶりと待望の1発。それが出来るのが新井だ。18日からはチーム一丸となり12連戦に挑む。その輪の中心にはこの男もいる。【梶本長之】