9番目の野手が、マジック3を点灯させた。ヤクルト石川雅規投手(35)が5回、巨人のエース菅野から先制の右前適時打を放った。投げても5回を1失点に抑える粘りの投球。今季2度目の中4日登板で、2度とも巨人を撃破した。14年ぶりのマジック点灯。最短Vは明日29日だ。

 一塁を回ったところで石川は、大きく両腕を広げて手をたたいた。5回1死二、三塁。菅野の外角低めスライダーに食らいついた。「もう1度やれって言われても無理」というバットコントロールで、打球は二塁手の上を越えた。貴重な先制適時打だった。

 冷静だった。3球目の内角低め149キロのボール球が、石川にはストライクに見えた。とてつもなく速く感じた。それに対応するために、短く持っていたバットをさらに短く持ち直した。グリップやヘッドをいろんな人のモデルから組み合わせてつくった特注バット。「こだわったのは振りやすさとバントの決まる雰囲気です。当たらないことには何も起こらないので」。打撃にも強いこだわりを持つ石川ならではの先制打だった。

 本職では、我慢して低めを突く投球を披露した。5回1失点の内容には「5回しか投げられなかった」と悔しさをあらわにしつつも「この時期に来たら結果がすべて。チームが勝ったので良かった」と胸を張った。信頼するリリーフに後を託し、ベンチの最前列から声援を送った。

 実は、体調を崩していたことをひた隠した。「この時期に熱を出したとか、チームに迷惑な話だし格好悪い」と吐き捨てるように言った。気力で平熱まで戻し、この日のマウンドに立った。何を聞かれても「大丈夫です。平熱でした」と繰り返した。川端チーフトレーナーの「登板2日前に38度を超える発熱があり、風邪薬を飲んでいた」という説明がなければ、分からないほどだった。

 優勝へのマジック3を点灯させた。01年のヤクルト優勝の時はまだ青学大在学中。優勝の決まった次の試合を観戦したのを覚えているというが、かすんだ遠い記憶だ。待ち望んだ、プロ初の優勝に向けて「マジックがともったからといって優勝したわけではない。浮かれてるヤツは1人もいないし、みんな分かってると思う」と気持ちを緩めることはなかった。【竹内智信】

 ▼ヤクルトに優勝マジック3が点灯した。巨人は残り4試合に全勝した場合、76勝66敗1分けで勝率5割3分5厘。ヤクルトは残り5試合のうち巨人戦1試合に敗れても、他カードで3勝すれば76勝65敗2分け、勝率5割3分9厘となり巨人を上回る。ヤクルトのマジック点灯は前回優勝した01年以来14年ぶり。ヤクルトの最短胴上げは明日29日。29日の優勝条件は巨人が28日阪神戦に●、ヤクルトが28日中日戦、29日広島戦に○○か○△(順不同)。

 ▼石川が巨人戦通算25勝目。現役では並んでいた川上(中日)を抜き、山本昌(中日=43勝)に次いで2位となった。ヤクルトで25勝は金田65勝、松岡34勝、川崎29勝に次いで4人目。石川は巨人戦通算24敗。巨人戦通算勝敗で勝利数が敗戦数を上回ったのは04年以来で、ヤクルトで25勝以上の投手では川崎(24敗)に次ぎ2人目となった。