涙はなかった。ソフトバンクのキャプテン内川聖一外野手(33)は、ともに戦ってきた仲間、そして工藤監督に担ぎ上げられると、ガッツポーズ姿で5度、高く宙に舞った。3試合連続で決勝打を放ち、MVPに選ばれる堂々の活躍。シーズン中、苦しみ続けた思いをCSで晴らした。

 「シーズン中は迷惑を多々かけることがあって悔しかった。皆への感謝の気持ちを持って、CSでは絶対に結果を出してやろうと思っていた。仲間の選手誰もが『文句なしのMVPだ』と言ってくれた。皆に認められてうれしい」

 3回2死二塁からロッテ石川の外角カーブを捉え、三遊間を破る先制打。1打席目には左手首に死球を受けると、怒りを押し殺し、黙ったまま石川を凝視して“無言の抗議”を続けた。左手首は内出血で腫れていたが、痛みも忘れ、必死にボールに食らいついた。

 レギュラーシーズンでは、打率2割8分4厘で8年連続の打率3割を逃した。併殺打はリーグ最多の24。得点圏打率も3割を切った。だが、CSでは12打数5安打、打率4割1分7厘、4打点。「短期決戦は1試合の重みが違う。でも、数字が長いこと残らないから切り替えやすい」。初戦でサヨナラ打を放った勢いは最後まで止まらなかった。

 リーグ優勝時には、アウトあと1つの時点で目に涙を浮かべていたが、今回は笑みがこぼれ出た。

 「僕の野球人生にとってきっかけになる1年になると思う。悔しさ、うれしさを忘れずに、野球選手としてもう一回り大きくなれるようにしたい」

 内川の胴上げに加わった工藤監督も「キャプテンとして僕が背負わせてしまったものもたくさんあったので、何とかそれを胴上げで受け止めてあげたいと思った。階段を1つずつ上がってくれた気がしてすごく頼もしかった。キャプテンにしてよかった」と、成長に目を細めた。

 まだ終わりではない。日本シリーズという土俵に立つ。「もう1回、監督を胴上げしたい。僕も胴上げしてもらいたい」(内川)。2年連続日本一へ。キャプテンは力強く言い切った。【福岡吉央】

 ▼内川が第1戦のサヨナラ打、第2戦の勝ち越し打に続き、第3戦は先制打を放って3試合連続勝利打点。内川の勝利打点は昨年ファイナルS第6戦からは4試合連続5度目となり、プレーオフ、CSでは和田(中日)に並び最多。日本シリーズでは90年にデストラーデ(西武)が勝利打点を3度記録したが、プレーオフ、CSで同一シーズンに3度は初めて。シーズンをまたいだ4試合連続も初の快挙で、CSの内川は通算71打数26安打、打率3割6分6厘をマークしている。