ドカベンの世界を、マウンド上で再現してみせる。ヤクルトのサブマリン山中浩史投手(30)が12日、魔球「ハエ止まり」の習得に意欲を燃やした。漫画「ドカベン」の中で登場する、ハエも止まるほど遅い球。100キロ前後のスローカーブを操る山中は不朽の名作からイメージを、連想させる。目標である90キロ前後の変化球を身につけ、来季はプロ初の2桁勝利をつかむ。

 漫画の世界を、憧れのままで終わらせない。サブマリン山中は今オフの目標に、90キロ前後のスローカーブ習得を掲げた。モデルは野球漫画「ドカベン」だが、モデルは同じサブマリン里中ではなかった。「ハエ止まり!? あれはすごい」。剛速球投手の不知火が操る、ハエも止まるほど遅いスローボールだった。球速は60キロ程度とされているが「冗談抜きにあれだけ遅い球が投げられると緩急もつく」と目を輝かせた。

 山中の直球の最速は130キロ台と、不知火の最速162キロにはほど遠い。だが、90キロの魔球を手にすれば球速差は40キロにもなる。「ストレートのスピードを上げることは難しいからね。だったら遅ければ遅くていい。その分、タイミングを外しやすいんじゃないかな」と、逆転の発想から生まれたアイデアだった。

 実在の目標もいる。「渡辺俊介さんのカーブも理想的。同じ下手投げだし、フワッと浮き上がって落ちてくる感じがいい。何より腕を振り切って90キロくらいのスピードはすごい」。動画サイトなどでリリースの勉強も欠かさない。

 さらには帰省した際の練習も決めている。地元・熊本には、釈迦(しゃか)院御坂遊歩道に日本一の石段(3333段)がある。「上ったことあるけど、本当にきついからね」。自主トレ期間中に上り、下半身をいじめ抜く予定だ。

 今季はプロ3年目で初勝利など6勝を挙げる活躍を見せたが、唯一の心残りがあった。昨年まで在籍したソフトバンクと対戦した日本シリーズで登板できなかったことだ。「成長した姿を見せたかった」。来年以降にその目標を果たすためにも、さらなる武器が必要となる。「けがをしない体を前提に、2桁勝利を狙いたい」。ハエが止まるようなスローボールで、リーグ連覇…そして打倒ソフトバンクを果たしてみせる。【栗田尚樹】

 ◆ハエが止まるボール 水島新司作の不朽の野球漫画「ドカベン」の中で、登場人物である白新高の不知火守が投げたスローボール。あまりにも遅いことからハエが止まる演出がなされ、「ハエ止まり」「超遅球」の名が付いた。球速は60キロ程度といわれている。明訓高の4番で、本作の主人公である山田太郎を封じるために編み出した魔球。