新伝説へ、阪神ドラフト1位の明大・高山俊外野手(22)が助走を始めている。東京6大学で通算131安打を放ち、同リーグ最多安打記録を48年ぶりに塗り替えた。15年10月末に右手有鉤(ゆうこう)骨骨折の手術を受けたが、すでにティー打撃を再開。プロでの戦いに備え、牙を研いでいる男の今に迫った。

 どこまでも落ち着いた22歳だ。タイガースのドラフト1位。重圧を感じてもおかしくないが、緊張した面持ちを一切見せず、淡々と言葉を紡ぐ。高山とはそういう男だ。

 与えられた背番号は9。前任者のマートンは、来日1年目の10年に、当時のシーズン安打記録を塗り替える214安打を放った希代のヒットメーカー。その背番号が表すように周囲からの期待は大きい。高山の実績を考えれば当然だ。東京6大学で通算131安打。48年ぶりにリーグ最多安打記録を塗り替えた。

 「背番号に負けないようなという言葉がありますけど、僕らしく一生懸命やって、この9番という数字が僕の数字になっていけば一番うれしい」

 今はまだ、背番号9といえば、誰もがレジェンド助っ人を思い浮かべるだろう。だが、いつかは必ず-。決して大言壮語ではなく、地道に1つずつ歩を進め、球界を代表する選手になる覚悟が、言葉ににじみ出ていた。

 プロでも羽ばたくためのスタートは切っている。昨年10月末、秋季リーグ戦で負傷した右手有鉤骨骨折の手術を受けたが、心配は無用だ。現在もリハビリ中とはいえ、ティー打撃を再開させ、そのスイング強度も日に日に増している。現在は塁間でのキャッチボールを行うなど、スローイングに関しても回復具合は順調だ。完全復帰へのメドにしているのは、2月春季キャンプ。「目標にしている1つのところ。頑張って調整して100%で臨みたい」。今後は、鳴尾浜での新人合同自主トレで、フリー打撃やマシン打撃など、さらに練習の強度を上げていく青写真を描いている。

 「(プロ野球は)1つ1つが初めてですけど、僕なりに一生懸命やっていければ結果はついてくる」

 高山物語に終わりはない。アマ野球界の歴史に名を刻んだ背番号9が、今度はプロの世界で新たな伝説を作る。【梶本長之】

 ◆高山俊(たかやま・しゅん)1993年(平5)4月18日、千葉県生まれ。小学1年で野球を始め、船橋中央リトルシニアでは遊撃手兼投手。日大三で外野手に転向し3年夏の甲子園で優勝。思い出のシーンにも「甲子園で優勝した瞬間」を挙げる。明大では東京6大学記録を更新する通算131安打。趣味は映画、音楽鑑賞。好きな女性のタイプは「一緒にいて楽な人」。181センチ、86キロ。右投げ左打ち。家族は両親と妹。

<高山俊の伝説>

 ★スイングスピード★ ドラフト指名の3週間前、ミズノ社製のバットスイング解析機器「スイングトレーサー」でスイングスピードを計測すると、161・8キロを記録した。この数値は、昨季トリプルスリーを達成したソフトバンク柳田が、同機で計測した157・7キロを上回る。他機を使用したケースでは、14年にヤクルトのバレンティンが151キロ。条件によって、数値に差が出ることを踏まえても、高山のスイング能力が超一流であることを物語っている。

 ★トイレの神様★ 明大野球部寮で最高学年の4年生になっても後輩とトイレ掃除を行っていた。掃除中に、後輩からの野球や私生活での相談に乗っていた。一緒に掃除をしていた佐野恵太内野手(3年)は「僕にとっては高山さんは神様みたいなもの。打撃理論はもちろん、普段のふるまいについても教えてもらっていました」。きっかけは2年生のとき。人一倍ハードな練習を課されていたが、善波監督から「お前なら安打記録が狙える」と理由を教えられ、目が覚めた。以降、掃除を含め、率先して物事に対応。グラウンドではヒットを量産した。