西武菊池は直球の威力でロッテ打線を抑え込んだ。1点差に迫られた6回2死一、三塁。代打井口を150キロ内角直球で追い込んだ。「今日、一番良かった」というボールを勝負どころで投げ込むと、最後はワンバウンドするチェンジアップを振らせて乗りきった。ピンチでも動じずに粘れた。その背景には、今季のある取り組みがあった。

 書店で見つけた元ヤンキース、マリアノ・リベラの自伝「クローザー」を読んだことがきっかけだった。ギネス記録652セーブを挙げた守護神は著書で「シンプルに考える」「やるべきこと出来ることをやる」と書いていた。「それを読んで、まず自分を客観視しないとなって思いました」。それからシンプルに考えることがテーマになった。

 開幕前、勝つために何が必要なのか。自問自答した。「今までは調子の悪い時があると、腕の角度とか、体重移動とか、どこが悪かったのか、どうしたらいいのか、そんなことばかり考えてました」。世界最速のチャプマンら、メジャー選手の動画を参考にしたこともあったが「今考えると、情報過多というか、自分からノイズみたいなものまで拾っていた」と気が付いた。だから、シンプルに考えるよう変えた。

 この日はイレギュラーな出来事もあった。1回、本塁クロスプレーの判定が、ビデオ確認の結果、アウトからセーフに覆った。「これすごいなって思った。今までメジャーで見てたけど、初めてなので」。1度はベンチに引き揚げながら、再登板で角中を遊ゴロに打ち取った。そこでも全く動じなかった。

 粘り勝ちの今季初勝利の後で「やってきたことを貫くだけ。いい時ばかりではないので、自分のできることをしっかりやりたい」と言った。今年の菊池には、重厚な雰囲気が漂っている。【竹内智信】