失敗した後の執念が同点劇の原動力だった。9回、1点差に迫り、阪神北條が打席へ。球を見極め、沢村の4球目直球をライナーで左前に運ぶ。反撃のリズムを切らない貴重な安打で結果的に同点のホームを踏んだ。

 打たなければいけない理由があった。2点を追う7回に難攻不落の菅野から無死一、二塁の好機を築く。ここでバント要員として代打起用されたが、あえなくバットは空を切る。走者を進められず逸機。「しっかり準備します」と話したように猛省していた。ミスしても前を向く。「2打席目は良かった。無死からゴメスさんが本塁打を打ってくれて、自分も何とか塁に出ようと思った」。この反発力こそ成長の跡だ。

 9回に奮い立ったのは北條だけではない。1死二塁の同点機で江越が代打起用された。初球の外角フォークを引っ張り、三遊間を破る。中継のスキを突き、二塁も陥れた。「何も考えずに、ただただ打席に立って無我夢中で走りました」。前日27日には飛球を落球し、見逃しの3球三振に倒れて懲罰で代えられた。まさに汚名返上のひと振り。江越も「それはもちろんありました。明日に向けて1つ1つアピールしていきたい」と表情を引き締めていた。

 若虎の奮闘には、背景がある。試合前練習では金本監督が身ぶり手ぶりで江越を打撃指導。厳しさの後に見せた温かいタクトは、生き生きとプレーする一因だろう。指揮官は「粘りを見せたと言えば見せたかな。沢村に助けられたところもあったと思うけど自信にしてほしい」と言う。金本門下生の若い力でドローに持ち込んだ。【酒井俊作】