東北ゆかりのスターたちに生い立ちやターニングポイントを聞く「わたしのツクリカタ」。楽天松井裕樹投手(20)の後編です。桐光学園(神奈川)に進学し、2年夏に甲子園で1試合22奪三振を記録。なぜ2年生でエースになれたのか、なぜ3年生の夏は甲子園に出られなかったのか。当時の成功・失敗体験を振り返り、野球少年たちへの助言を送ってくれました。

 やっぱり高校に入ってからですね。ターニングポイントってやつは。まず、中学3年の時に神奈川から千葉へ引っ越したんですよ。高校決まってたのに。で、毎朝5時1分の始発に乗って通っていたんですけど、もう無理だと。それから寮生活になりました。

 寮では野菜は苦手でほとんど食べませんでした。今となればバランスの良い食事が大事っていうのがよく分かるんですけど(笑い)。まぁ野菜ジュースを飲んでいたんで大丈夫だと信じていました。米は鬼のように食いましたよ。1食1・1キロ。テレビ見ながらなんで、1時間くらいはかかったかな。それで体を大きくした。結構きつかったです。

 野球をやっている中学生が読んでいるなら、これだけは伝えたい。中学から高校に進学する際のスタートダッシュはものすごく重要。僕は中学3年でチームを引退してから、むちゃくちゃ練習しました。大体リトルシニアって8月には引退なんですけど、そこからもずっとチームに行った。週に3回ですかね。強制ですよ(笑い)。3年間野球をやってきて、最後くらいは遊びたいっていう気持ちは分かるんですけど、グッと我慢する。だから僕は高校に入学したときに、おじけづかなかった。自分が良い位置にいるなぁと感じられましたね。自分の中に貯金を作れたと思います。

 いつからプロを意識し始めたかって聞かれるんですけど、僕の場合はプロ野球選手を目指した時期ってないんですよ。実は。やり始めた時からずっと、僕はなるんだって信じてましたから。よく分からない自信というか、そんな気持ちがあった。中学になってからですね、本当にプロになるんだろうなって思ったのは。

 よく身長が低いのでプロの夢をあきらめるというような話を聞きますが、僕は身長が低いのを言い訳にしたことはありません。低いなら低いなりに体を目いっぱい使えばいい。それで打たれて、限界を感じたらそれまででしょう。小さいからというのを言い訳にしたくないんです。

 人との出会いにも恵まれました。小学4年の時に塾で出会ったやつがいるんですけど、そいつがずっと高校まで一緒。鈴木航介って桐光学園ではキャプテンだった。僕が甲子園で活躍できて、マスコミの方にワーッと騒がれて結構大変なことになりました。でも航介は僕のことを特別扱いしないで、強く言ってくれたり、怒ってくれた。高校で取り巻くものが変わっても、本当に近くにいるヤツらはずっと変わらなかった。大きな存在です。

 高校2年の夏、甲子園で人生は変わりましたね。今治西戦が終わって、朝起きたら全紙スポーツ紙の1面。そこからマスコミの方が毎日のように押し寄せてくる。最初は良かったんですけど、3年の時は本当につらかったですね。だって、練習試合で負けて1面とか、裏面になるんですよ? もう勘弁してくれよって。最後の夏に甲子園に出られなかったのは、完全に重圧に負けたと思っています。

 あとは夏をなめていました。実は入学した時にこうなったらいいなぁっていう未来予想図を描いていたんです。1年生では県大会の決勝で負ける。2年生で甲子園に出場。3年生で甲子園優勝。2年生まですごく順調で、描いたとおりに行ったんです。でも、そこで調子に乗ったんでしょうね。3年生の夏は甲子園決勝にピークが来るように練習をしていた。そうしたら神奈川の準々決勝で横浜に負けた。

 あの年はメンバーも良くて、絶対に甲子園には行けると思っていましたから。慢心ですよね。僕がアドバイスできるならば、その日の試合が決勝だと思ってやるしかないということですね。夏は1試合ごとに強くなる。苦しんで、全力でぶつかることで、成長できるし、絆も深まっていく。僕のは失敗談ですけど(笑い)。(終わり)

 ◆松井裕樹(まつい・ゆうき)1995年(平7)10月30日、横浜市生まれ。中学3年に所属していた青葉緑東リトルシニアでは全日本選手権で優勝。桐光学園では2年夏の甲子園で10連続を含む1試合22奪三振の記録を樹立。14年に楽天にドラフト1位で入団し、15年から抑え。15年のプレミア12では侍ジャパンにも選出された。174センチ、74キロ。左投げ左打ち。

(5月19日付 日刊スポーツ東北版掲載)

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