プレーバック日刊スポーツ! 過去の11月10日付紙面を振り返ります。2000年の1面(東京版)はイチロー落札、マリナーズ決定的でした。

 ◇ ◇ ◇

 オリックス・イチロー外野手(27)の米大リーグ入りが9日、事実上、決まった。日本時間のこの日早朝、ポスティングシステム(入札制度)の入札が締め切られ、移籍金にあたる最高入札額は1312万5000ドル(約14億円)の高額となった。米大リーグから日本コミッショナーを通じて連絡を受けたオリックスは、この最高入札額を受諾。イチローも「どの球団でも行く」と語った。球団名は伏せられたままだが、落札したのはマリナーズとみられる。今後30日以内に契約交渉成立後、日本人野手初のメジャーリーガーが正式に誕生する。

 

 さすがのイチローも、平常心ではいられなかった。最高入札額は約14億円。これまで通り、午後2時から神戸市西区の合宿所でキャッチボール、ティー打撃左右合わせて120スイングを行った。その後「力が入ったことに、しておいてください」と珍しく気持ちの高ぶりを口に出した。

 米コミッショナーから日本コミッショナーを経てオリックスへと渡った朗報は午後1時30分に、オリックス岡添球団社長からイチローに電話で伝えられた。オリックスは落札額を受諾することを即決し、イチローも前向きな姿勢を示した。「身が引き締まる思いです。久しぶりの感覚ですね。14億円? 比較もできないので、考えられない数字。信じられないと言うしかない」。この日の段階では落札球団を伝えられなかったが「どのチームでも行くという覚悟はしています。そりゃ条件はあります。環境があまりに悪いと困るけど、そんなこともないでしょう。まずは条件を聞いてから。こちらから言うことはありません」とあくまで前向きに話した。

 球団名については今後、米コミッショナーが当該球団に「受諾」を通知し、当該球団からイチロー側に交渉のための連絡が入って判明する。早ければ今日10日にも落札球団が分かるが、マリナーズの可能性が高い。マ軍は今月6日に筆頭オーナーの任天堂・山内社長が「最高の札を入れたい」と宣言。当初は5億円、高くて10億円といわれていたが、米各球団がけん制しながら入札額を定めていく中で跳ね上がった。マ軍内ではこの日、日本時間午前7時の入札締め切りを前に「落札するには1300万ドルは必要」の方向が固まったと伝えられる。

 またマ軍は米国内でも本命視されていたが、その状況下でライバル球団がマ軍に落札させないように動くとの情報が駆けめぐった。法外な金額を入札して、マ軍に交渉権を与えないようにするというもの。米球界関係者は、1312万5000ドルという額は「法外」にはあたらず、結果的にはマ軍ペースで進んだとみている。マ軍と業務提携を結んでいるオリックスもこの日、落札額を伝えられた後に善後策を講じるなどの動きはなく平穏だった。

 最終的には約15球団が入札。FA権を取得した主砲ラミレスの穴を埋めるべく獲得に乗り出したインディアンスやメッツ、ドジャース、ツインズ、パイレーツが参戦したもようだ。これらの球団が最終段階で14億円をラインに攻防を繰り広げ、わずかにマ軍を上回る入札をした可能性はある。

 今後は代理人のトニー・アタナシオ氏を通じて交渉することになる。「しょっちゅう連絡を取れないけど、大筋、ボクの意をくんでやってくれる」と全幅の信頼を寄せる。一両日中にも30日間以内の交渉がスタート。米関係者の話を総合すると、年俸5億円プラス出来高1億円の3年契約が最低ラインという。夢を貫いた道に、もう障害はない。早ければ今月中に、イチローはメジャーリーガーの称号を手にする。

<イチロー交渉経過>

 ▼表明 イチローとオリックスが10月12日、神戸市内のホテルで入札制度を使って米大リーグ移籍を目指すことを発表。

 ▼練習再開 右脇腹を故障し本格的な練習を休んでいたが同25日、ティー打撃で約70球を打ち込んだ。

 ▼佐々木もエール 同28日、都内で記者会見したマリナーズ佐々木が「対戦するより一緒にプレーしたい」とマリナーズ入り熱望。

 ▼期待と不安の交錯 入札制度解禁前日の同31日、「ドラフトの前でしょう。それと同じような感じです」と9年前、オリックスにドラフト4位指名を受けた当時の心境とダブらせる。

 ▼入札手続きスタート 11月1日、日本コミッショナー事務局が米コミッショナーにEメールとファクスで関係書類を送る。

 ▼入札スタート 同3日、メジャー30球団による入札がスタートする。

 ▼マリナーズ獲得表明 同6日、マリナーズ筆頭オーナーの任天堂山内社長が「最高の札(金額)を入れたい」と表明。イチローも「光栄なこと」。

 

<11・9ドキュメント>

 ◆正午前 米コミッショナー事務局から日本のコミッショナー事務局に電子メールが届く。最高入札額が明記され、金額は「$13125000(thirteen million and one twentyfive dollars)」とケタ数の読み間違いのないように、書いてあった。

 ◆正午すぎ 日本のコミッショナー事務局担当者がオリックス球団へ電話で、入札金額を連絡。

 ◆午後3時 オリックスは神戸市内の球団事務所で会見。同時にオリックスは入札額で受諾の意思を日本のコミッショナー事務局に電話連絡する。

 ◆午後3時すぎ オリックスから連絡を受けたコミッショナー事務局が米国の同事務局へ、受諾したことを電子メールで連絡した。

※記録と表記は当時のもの