しかし、体力も武器もない。2年が過ぎようとした昨年9月。浜田一志監督(52)から「ナックルボールを投げてみろ」と言われた。「監督の目がマジだった」。独学で学んだ。伊藤は、自腹でボール200個を購入しすべてに名前を入れた。仲間を付き合わせるわけにいかず、毎日ネットスローを繰り返した。そんな地道な努力も認められた。

 スタンドでは、夫人が憧れのマウンドに立つ夫を見つめていた。「40歳で神宮に来たかったわけじゃない。18歳で来たかった。大遅刻ですよ」。目指すのはリーグ戦出場だ。満足はまだ先にある。【和田美保】

 ◆伊藤一志(いとう・かずし)1976年(昭51)8月19日、愛知県生まれ。小4から野球を始め、東海(愛知)から東大野球部を目指すもかなわず浪人の末、都内の医大へ。硬式野球部で投手兼外野手として活躍。31歳で医師免許を取得し麻酔科医として勤務。12年春に東大文科3類に合格した。好きな授業は機能解剖学で、好きな食べ物はタンパク質。既婚。171センチ、73キロ。右投げ右打ち。

 ◆東京6大学野球フレッシュリーグ トーナメント方式だった新人戦を、各大学1回戦総当たりのリーグ戦形式に変え今春から導入された。1、2年生の出場機会を増やすことが目的だが、東大は4月下旬に1年生が入部するため3、4年生の出場が可能。