西武がやった! 新黄金時代の到来だ!! 西武が辻発彦監督(60)のもと、パ・リーグ2連覇となる23度目の優勝を果たした。

最大8・5ゲーム差からの大逆転劇。最後は食らいつくソフトバンクを振り切った。連覇は97、98年以来21年ぶり。個性豊かな山賊たちを率いて強力打線を構築。手腕を発揮した。次なる目標は昨季敗れたクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ突破、そして08年以来11年ぶりの日本一だ。

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最後のボールは自ら託した。9回のマウンド。辻監督が向かっていく。増田に告げた。「楽しめよ」。心中も同じ思いだった。2死から三塁ファウルゾーンへの飛球を中村が捕り損ねると、ベンチから笑った。みんな笑った。連覇を託し、信じ続けた選手たちとともに2年連続パ・リーグ制覇。「今年はしんどい戦いになると思ってましたが、主力が抜けても勝てるんだと意地を見せてくれた。肉体と精神の強さが連覇につながった」。大逆転優勝をもたらした。

首位在位日数はわずか11日。「全然苦しくなかったよ、本当に。試合になったらいつも通りよ。昨年と比べれば、天と地ぐらい」。1度も1位を譲らなかった昨季のように、追われるプレッシャーはなかった。8月8日時点の順位は4位。「Aクラスに入ることしか考えられなかった」。追うしかない反攻の夏は、「決断」から始まった。

8月11日ロッテ戦。4番中村。打撃コーチが用意したラインアップに「よし、それでいこう」と即答した。同時にこれは、精彩を欠く山川の降格を意味する。我慢の7月。腹案を練っていた。「本当にチームをずっと支えていく真の4番にはまだ足りない。だからアイツに俺から何か言うことはない。まだまだだよ、というところ」。起用に情は入れない。打順組み替え後の勝率は、7割1分8厘。開幕前に掲げた1番金子侑・3番秋山も、5月に崩した。意地はあっても、執着はしない。「最後までお客さんが帰らない面白い野球をやる」。その信念があるから、勝負師になれる。

決断の土台は観察にある。試合前練習はノックバットを握り、ジッとフリー打撃を見つめる。目を配り、時に耳を傾け、現状を把握する。試合日の日課のランニング後は、相手先発の映像チェックに時間を割く。ペンを走らせながら、攻略のイメージを練り上げる。

勝つための選択の結果、レギュラーメンバーはほぼ固定され、8選手が規定打席に到達した。しかし、同時に各選手の体への負担は大きくなる。シーズン終盤は、トレーナーからコンディションを聞く日々。「あんまりこっちが『行け行け』とも言えないしね」。休養と途中交代を巧みに使い、やりくりした。

代えがきかないのは選手だけではない。春季キャンプでは打撃投手やトレーナーらを「みんなでメシを食ってこい」と送り出した。支払いだけで、その場には行かない。「話しづらくなるやろ」。10度、夜空に舞った胴上げ。その輪にいなかった、裏方の支えに感謝を忘れたことはない。

座右の銘は「人生、タイミング」。西武の黄金時代を担い、95年オフに戦力外となった。複数球団から誘いがあったが「俺は最初にオファーをくれたところに行くって決めているから」と、1番手で声を掛けてくれた野村監督のヤクルトを選んだ。現役引退後、06年に侍ジャパンのコーチのオファーを受けたときも同じ。直後に楽天の監督に就任する野村監督からコーチの要請がきたが、信念を貫いた。「野村さんには今でも言われるよ。俺の誘いを断りやがったって」。恩師からであっても、自分を曲げるわけにはいかなかった。

試合前の君が代斉唱では、天に向かい、心の中で言う。「おやじ、見てる? 楽しんで。俺は今日も頑張るから」。監督就任1年目の17年2月1日に亡くなった父廣利さんに、勝利を願うことはない。勝つことは、つかみ取るもの。昨季、涙で終えたCSファイナル。「また、ここまで来ることができた。さらにチームを1つにして、勝ち抜いて日本シリーズに行けるように全力で頑張ります」。もう2度と、優勝ペナントを悔し涙でぬらすわけにはいかない。【栗田成芳】