<楽天0-17日本ハム>◇1日◇Kスタ宮城
静まりかえる敵地スタンドに、乾いた打球音だけが乱れ飛んだ。打ちも打ったり28安打。74年6月2日阪急戦で記録した1試合25安打の球団記録を34年ぶりに更新し、CS出場切符をつかんだ。2回に中前2点適時打を放った稲葉は「4試合分を1試合でだもんね。なかなかないこと。みんなが集中力を持ってやった結果。ホッとした」と表情を崩した。
プレーボールのコールが猛打ショー“開演”の合図だった。1回、先頭の田中が、楽天先発田中の初球ストレートを右前にはじき返した。CS進出へ絶対に負けられない大一番。プレッシャーで金縛りにあってもおかしくない試合の中、たった1振りで重圧を解き放った。シーズン全イニング出場を果たしたリードオフマンは「初球を狙っていました。今年はいい感じでマー君を打てていましたからね。プレッシャーは感じていたけど、序盤にいい形で点が取れました」。森本が送り、スレッジの右前打で先制。もう、ベンチに漂う緊張感は吹き飛んでいた。
2回にスレッジの3ランなどで5点を奪うと、5回には5連打などでさらに6点。同時刻に西武と戦っていたロッテは、大量リードを許していた。球団記録へのカウントダウンは、そのまま、CSへの秒読みに変わった。
「今日は楽しくやろうと思った」。前夜、10時間以上寝たという稲葉の言葉が、ファイターズ野球を象徴していた。シーズンが進むごとに忍び寄る重圧に、押しつぶされる選手は1人もいなかった。選手会長の金子誠は言う。「若い選手だって経験もあるし、ムードも変わらない。浮き足だったこともない」。王者の誇りと余裕。過去2年の激闘で積み上げてきた経験が、地力となって正念場の試合で爆発した。1番驚いたのは、過去2年を知らない梨田監督かもしれない。「信じられない。選手1人1人が次へとつなげてくれた」と目を丸くした。
日本ハムのシーズンはまだ終わらない。田中は「下からジワジワと、1つずつ食っていきたい」と力を込めた。1度“死んだ”王者ほど、怖いモノはない。【本間翼】



