<日本シリーズ:西武4-6巨人>◇第3戦◇4日◇西武ドーム

 痛みに強い男だ。巨人が4日、3発を西武に浴びせて連勝、対戦成績を2勝1敗とした。2日の第2戦で左手に死球を受け、出場さえ危ぶまれた小笠原道大内野手(35)。1点差に詰め寄られた8回、右翼席へダメ押しとなる今シリーズ1号ソロ。公式戦から続くアレックス・ラミレス外野手(34)との「オガラミ弾」の不敗神話も「17」とした。1回には俊足の1番鈴木尚広外野手(30)の出塁をきっかけに3球で先制する“速攻”。鈴木尚は2回に1号3ランを放つなど、走攻守に魅せた。

 無我夢中だった。打った球も、飛んだ方向も分からなかった。1点差に迫られて迎えた8回、小笠原は内角直球に対して本能的に反応した。その場でクルッとまわるコンパクトなスイング。2点差に広げリリーフ陣を勇気づける1発。「後ろにつなごうって意識だけだった」。その必死さが強烈な一撃を生み出した。

 余裕があるはずはなかった。2日の第2戦で左手に死球を受けた。骨折してもおかしくないほどの衝撃にみるみるはれ上がり、顔をゆがめたほど。それでも「ガッツは必ず出場する」という周囲の重い期待に応えてみせた。原監督は「昨日はバットも振れるような状態ではなかったし、心配したんですが、彼の精神力の強さが、あの本塁打につながったのでしょう。素晴らしいです」と絶賛した。

 首脳陣の不安をよそに「自分は最初から出るつもりだった」と言い切った。前日は死球を受けた患部をアイシング治療するとともに、宿泊する立川市内のホテルになじみの整体師を呼んで体のケアもした。「プレーできるから出ている。すべては試合のために準備している」と、やるべきことはすべてやってこの日を迎えていた。

 CS突破を決めた10月25日の中日戦の試合でも左手に死球を受け、途中退場していた。なんとか骨折は免れて、試合後、日本シリーズに向けて気持ちを切り替え、帰宅しようとした時だった。同じく帰り支度をしていた高橋由とばったり出くわした。監督と腰痛のため日本シリーズ欠場を話し合った直後の男から「すみません。日本シリーズはプレーできません」と打ち明けられ、絶句した。試合に出られる自分は、全力で日本一に向けてプレーしなくてはという思いが強まった。この日の勝利にも「まだまだです。終わるまではね」と貪欲(どんよく)な姿勢を崩さなかった。

 原監督は小笠原の本塁打に今季、何度も勇気づけられたのを思い出していた。「追い上げられたところで、今年を象徴するようなガッツの本塁打が出た。得点以上の本塁打だったね」と、痛みに耐えながらコンディションを整えた、チームの模範となるようなヒーローの一撃に感激していたが、すぐに気持ちを引き締めた。「1つ1つです。短期決戦というけれど、腰を据えて戦うのが日本シリーズですから」。まずは今日、勝って王手をかけることにすべてを尽くす。小笠原もアイシング治療しながらバスに乗り、早くも次戦への準備に取りかかった。【竹内智信】