<広島4-3巨人>◇17日◇マツダスタジアム

 涙の初白星だ。広島のドラフト1位福井優也投手(23)がプロ初登板初先発した巨人戦で、鮮やかなプロ初勝利を挙げた。強力打線を7回6安打2失点に抑える好投。かつてドラフト指名を受けながら入団拒否した因縁の相手から、記念の1勝をもぎとった。

 福井の胸は熱くなり、目頭を押さえ、顔は紅潮した。初めてのお立ち台。バックネット裏で観戦した父俊治さん(52)と母明美さん(53)にメッセージを送る。「今日、来てくれている両親には…」。10秒近い沈黙のあと「『ありがとう』と伝えたいです」と、辛うじて言葉を絞り出した。

 そんな感謝の思いをマウンドで体現した。同点の4回1死、高橋に抜けたスライダーを打たれて左翼へ勝ち越し弾を許した後から一変。速いテンポで投げ込み、変化球を低めに集め重量打線を封じた。

 因縁の対決だ。巨人から05年高校生ドラフトの4巡目指名を受けながら、指名順位の低さを理由に断った。試合前には「巨人には恩返しというか成長したのを見せたい」と話した。一般入試で早大を不合格となり、1年の浪人生活を支えたのは強い心だった。事あるごとにペンを手に取り、サインの練習。「背番号がないのに自分で考えて『11』って書いてました。早稲田は11がエース…。そういう目標で書いた」。人として器を広げる。意志を貫き、早大、そして、広島で11を背負う。

 140キロ台中盤の速球やスライダーを駆使し、87球に魂を込めた。「初登板の意識はない。マウンドに上がる喜びを感じながら投げた。まだ1勝。1年間ケガせず先発ローテーションを守って、勝てる投手になりたい」と心にスキはない。背番号11の好投で、昨年開幕中日戦(10年3月26日)以来387日ぶりの貯金1。3連勝で、首位タイに躍り出た。【酒井俊作】