練習するしかないんや。阪神金本知憲外野手(43)が、巻き返しへの悲痛な思いをスイングに込めた。遠征先札幌から午前8時10分発の航空機で神戸に戻り、甲子園直行。休日を返上し、たった1人で約1時間、バットを振り込んだ。借金が9に膨らむ危機的状況の中、今日3日から交流戦12戦無敗のソフトバンク戦。あきらめない思いを、アニキが行動で示した。

 まだ空気が冷たい早朝の新千歳空港に金本が姿を現した。チーム便より2時間20分も早い午前8時10分発のANA便に乗り込んだ。2時間のフライト後、神戸空港から向かった先は甲子園だった。

 グレーのスーツを脱ぎ、白いTシャツと短パンに着替えると、バットを片手に一塁側ベンチ裏のミラールームに入った。試合前と同じルーティン。もちろん試合はない。練習もない。だが、チーム便が上空を飛んでいる時間帯に、たった1人で1時間近く体を動かした。全身から汗が噴き出していた。

 「軸になる選手に奮起してもらわんとね。チャンスがあれば足を使ったりもするけど、それは枝葉の部分だから。やっぱり軸になる選手にね」。

 チーム便で大阪に戻った和田打撃コーチが、打線復活のポイントを語った。その声が届いているかのような行動だった。

 金本の休日返上練習はまったく珍しくないが、この日は仙台、札幌の6泊遠征からの帰りで、しかもナイター明け。ほとんどの選手が休養を優先させるなか、鉄人は遠征疲れの体に刺激を入れた。

 「いえ、まだ早いです」。5月29日に逆転V弾を放った鉄人は、復活宣言を差し控えていた。言葉の通り、復活と呼べる状態ではなかった。遠征4試合のヒットは結局、アーチ1本だけだった。5月に入り調子を上げていたが、打率は2割6厘まで落ちてきた。

 阪神は2試合連続で完封負け。低調な打線に引きずられて借金は9まで膨らんだ。しかし、こんなところであきらめるわけにはいかない。個々の工夫やベンチワークは有効な打開策に違いない。それでも和田コーチはあえて「主軸の奮起」をキーとした。主軸に重責がかかることは、鉄人にもわかっている。

 今日3日からは甲子園にソフトバンクを迎える。交流戦10勝2分けの難敵だ。初戦の相手先発は6連勝中のホールトン。外国人投手の先発試合は7戦全敗で、2戦目は交流戦16勝の杉内が予想される。前回の博多では山田、杉内に連続で完封を食らった。返り討ちされれば借金は2ケタに突入する。

 とにかく、勝つしかない。43歳の金本が、ひたむきな思いを行動で表した。【柏原誠】