<中日6-2ヤクルト>◇23日◇ナゴヤドーム

 落合野球の申し子がヤクルトを粉砕した。首位攻防第2戦は同点に追いつかれた直後の8回2死から荒木雅博内野手(34)が二塁打で出ると、井端弘和内野手(36)の中前打でホームイン。“超前進守備”をかいくぐる驚異の走塁で決勝点を奪った。前日に退任が発表された落合博満監督(57)が就任した04年からチームの中心であり続ける「アライバ」が4連勝を呼び、首位ヤクルトに2・5ゲーム差まで詰め寄った。

 敵も、味方も、スタンドも、何人の人間が予想できただろうか。同点に追い付かれた直後の8回裏2死二塁、井端がヤクルト久古の外角変化球を拾った。中堅右へ落ちた。二塁から荒木が快足を飛ばす。だが、前進守備の青木との競争に勝てないように見えた。無理か…。そんなスタンドのため息を尻目に荒木は速度を落とさず三塁を蹴った。

 「(三塁コーチに)止められるまでいったろうと思った。最後(スライディング)はとっさに出た。捕手が少し前に出たから」

 本塁手前、青木の返球が相川のミットに収まった。2度目の絶望感が襲った。だが、荒木は、相川がわずかに前進してできたスペースを見逃さなかった。反対側へ頭から突っ込むと左手でベースにタッチ。

 大歓声の二塁上では井端が万歳だ。「荒木ならやってくれる。(三塁コーチに)回してくれと思っていた。8対2で荒木の得点ですよ」。右打ち職人は荒木とのコンビに胸を張った。2-1とリードした8回、絶対的セットアッパー浅尾がまさかの押し出しで同点とされる嫌な流れを2人で振り払った。この後、森野、ブランコ、堂上剛の適時打で勝負あり。昨季、8ゲーム差を逆転した底力を持つオレ竜がツバメを2・5ゲーム差まで追いつめた。

 「やっと選手が動き始めたな」。試合後、落合監督はわずか3秒で会見場を後にした。ヤクルトとの首位攻防4連戦を迎えた前日、試合開始3時間前に退任が発表された。その翌日、就任した04年から落合野球の象徴だった2人が立役者となったのは偶然ではない。

 「あと4日待てなかったのか!」。前日、チーム内には怒りの声が渦巻いていた。多くの選手がヤクルトとの首位攻防4連戦の直前という、退任発表のタイミングに疑問を感じていた。だが前日、落合監督は自らの退任をひと言も選手に報告することなく普段通り采配を振るった。無言で示したプロの姿-。選手たちも受け止めた。

 「僕たちは普通にやるだけ。ただ、最後の最後でもうひと踏ん張りする力は出てきた」。荒木はこう締めた。指揮官退任の衝撃を乗り越え、力に変え、突き進む。【鈴木忠平】