<巨人3-2広島>◇3月31日◇東京ドーム

 今季も慎之助が大将だ。巨人阿部慎之助捕手(34)が、自身12度目のサヨナラ安打で開幕カード勝ち越しを決めた。延長11回、満塁の好機をきっちりものにした。第3回WBCでは主将として侍ジャパンは無念の準決勝敗退。失意と脱力感から始まった13年シーズンだったが、開幕カードでいきなり大仕事をやってのけた。40年ぶりとなる日本一の連覇を狙う巨人は主将の一打で連日の延長戦を制し、盤石のスタートを切った。

 最強だった。慎之助が決めた。延長11回、2-2の同点に追い付き、なお無死満塁のチャンス。「こんなにおいしい場面でいいのかな」と、胸騒ぎを抑えて打席に入った。広島の4番手・横山との対決。外角の変化球を2球続けて見極め、2ボールで絶対優位な土俵をつくった。3球目、内角低めのスライダーを豪快に強振。強烈なライナーで右翼フェンスにぶち当てた。

 9打席ぶりの安打はチームを劇的な勝利に導くサヨナラ打。「こういうときにちゃんと打てれば調子が上がっていくと思う。2ボールまで我慢できたことが大きい」と、自身の復調に手応えを得た。さらには主将としても「こういう試合をものにできるかどうかが、連覇には必ず必要な要素。みんなで頑張った結果だと思う」と、開幕カードの勝ち越しを決めた一戦に大きな価値を見いだした。

 久々に胸がすっきりした。WBCの準決勝で敗退し、失意の帰国から13日目。誕生日の3月20日は、米国時間でいえば決勝翌日とあり、アメリカへ出発する前は「飛行機の中で誕生日を迎えられたらいいのにな」と、3連覇と自身の34回目の誕生日を機内で祝う青写真を描いていた。だが、願いはかなわず、日本時間19日には日本へ戻ってきた。帰国直後は「疲れたよ。少しでも気を抜いたら、病気になっちゃうかもしれない」と、成田空港のベンチで缶コーヒーを飲み干すしかなかった。

 開幕へ切り替えは家族と一緒に始めた。休養日だった翌20日の誕生日当日は、家族5人で神奈川県内の動物園に出かけた。だが「祝日だったから人が多くて…。結局、実家に行って、お墓参りしてきた」。先祖への報告に決意を示した。「33歳は巨人では最高の1年だった。最後のWBCは残念だったけど神様が『もっと頑張れ』って言っているんだろうね」。後ろを振り向かずに前へ進むことを誓った。

 開幕カードから2試合連続の延長戦を強いられたが、3時間36分に及んだ熱戦は自らのバットで決着をつけた。お立ち台では、今季初めてとなる決まり文句「最高でーす!!」を絶叫。WBCの悔しさは胸にとどめた。次なる戦いの舞台へ-。慎之助が高らかに開戦を宣言した。【為田聡史】