<巨人2-5阪神>◇6日◇東京ドーム

 いや~、ビックリした。阪神能見篤史投手(33)が、打って投げての大活躍で復活勝利をド派手に飾った。左手中指爪の負傷で2軍調整していたが、巨人戦に合わせて復帰。4回に右前打した勢いで?

 今度は6回に驚きのプロ1号を右翼席へかっ飛ばした。巨人戦の1発&完投は84年池田以来、虎史上29年ぶり。黄金週間の締めくくりは、歴史的勝利だ。

 野手顔負けの弾道が東京ドームに舞い上がる。白球はグングン伸びる。右翼長野も見上げるだけだ。巨人ファンがひしめく客席にズドン!

 1点リードの6回1死走者なし。笠原の甘い直球を思い切り引っ張る。打席に立っていたのは投手の能見だった。一塁を回ると小さくガッツポーズ。力投していたサウスポーが自らのバットで2点差に広げ、ダメージを与えた。

 能見

 プロに入って、1本も打ったことがないので本当に入るかどうか分からなかった。ビックリですよ…。まさか…。野球人生、プロで1本は打ちたいと思っていた。良かったです。

 鳥取城北高2年以来の1発。プロ9年目で初めて味わうダイヤモンド1周は夢心地だった。打席では手がしびれる恐怖心など、おくびにも出さない。4月16日巨人戦。この日と同じ東京ドームで迎えた2回の第1打席で投ゴロに詰まり、手がしびれた。マウンドで影響が出て、投球で左手中指の爪も割れた。手に災難が降りかかった一戦だったが、平然と振る舞う。「詰まるのは仕方ない」。3点差だった7回2死の打席でも強振。“おかわり”のホームランコールが起こり、興奮は最高潮。闘志満々のフルスイングも武器だ。

 投手だが打撃へのこだわりは人一倍強い。今季の開幕前。藤井彰と野球道具の話題になり、おもむろにベテランのバットを握った。「これ、いいですね~」。ゼット社に依頼し、今年から藤井モデルの相棒で勝負する。「軽く振り抜けるものを」との理想から重量は軽量型の890グラム前後。万全を期して手のしびれを防ぐアイテムも用いる。同社が手掛ける投手の打撃グラブは野手用に比べて分厚い。少しでも、手への衝撃を和らげる工夫が施される。野球用品にこだわり、1球に執着する姿勢が実った。

 左手中指の爪が割れ、この日は4月23日中日戦(ナゴヤドーム)以来、中12日の先発だった。序盤は投球感覚が狂い、浮足立った。フォークはことごとくワンバウンド…。1回は2暴投も絡んで失点し、2回は長野に被弾。それでも、3回以降は変化球の制球も修正し、巨人打線を手玉に取った。終わってみれば今季2度目の完投で2勝目だ。

 能見

 初回はバタバタで、自分自身、どうなるかと思った。引っ掛けるか抜けるか…。自分のイメージとフォームのイメージがちょっと違った。中盤くらいからしっくりくるようになったので良かった。爪が割れてチームに迷惑をかけたので、しっかり頑張りたい。

 巨人戦で歯車が狂ったエースは、しっかり伝統の一戦でよみがえった。打って投げて自分で試合を決め、まさにエースの姿だった。【酒井俊作】