<ヤクルト2-1巨人>◇29日◇静岡

 新しい巨人キラーの誕生だ。ヤクルトの新人、小川泰弘投手(23)がリーグ単独トップの8勝目を挙げた。7安打3四球で毎回走者を背負ったが、113球を粘り強く投げて7回1失点にまとめた。これで巨人戦は初登板から2戦2勝。チームは最下位に低迷する中、真っ向勝負が身上の171センチの「ライアン」の勢いは止まらない。

 ここが勝負どころだと、小川は感じ取っていた。6回。同点にされ、なお2死三塁。打席には巨人ファンだった少年時代に憧れた高橋由が入った。ここで勝ち越されたら流れを一気に持っていかれる。だからこそ「勝負どころでしっかり内角に投げられていた」と自信を持っていたカットボールを初球から投じ、1球で二ゴロに仕留めた。

 ヤマ場を乗り越えても変えなかった表情が、7回に和らいだ。ベンチで自身の代打田中浩が決勝適時打を放つのを見届けた。「チームが勝てば一番いいので、何とか点が入ってくれと思いました。うれしかったです」と、試合中には珍しくほほ笑んだ。これが決勝打となり、今季8勝目が転がってきた。

 8勝のうち、2勝は首位巨人から奪った。巨人の印象を聞かれると、常に「とにかく強い」と言う。29日時点で本塁打数は12球団トップの打線は抜け目なく見える。だが、びびることはなかった。「強敵なので少しでもひるんだら負ける」と言い聞かせ、真っ向勝負を挑んだ。

 7回まで毎回走者を出したが、外角一辺倒の投球はしない。「自分の間、フォームで投げられればそんなには打たれない」と、左足を高々と上げる独特のフォームから堂々と内角にも投げ込んだ。4回には坂本から内角高めの146キロ直球で空振り三振を奪うなど5奪三振。7回1失点で投げ抜き、巨人斬りに成功した。

 強く大きい相手に向かっていくのは、小さいころからだ。父吉弘さん(60)は「昔から相手が大きくても臆することがなかった。強い方が燃える子でした」と話す。小学校時代も体は小さい方だったが、大型選手ぞろいのチームを真っ向勝負で抑え、東海大会まで勝ち進んだ。中学卒業時には、愛知県内の私立の強豪校からの誘いもあったが「地元の高校から強いところを倒していきたいとのことでした」(吉弘さん)と、県立の成章に進学。21世紀枠でセンバツに出場し、創部103年目での甲子園初勝利をつかんだ。

 その気概はプロ入りしても変わっていない。チームで勝ち頭の新人の投球を、小川監督は「彼は表情は変えないけど、すごい。マウンドでの立ち居振る舞いは素晴らしいと思う」と褒めちぎった。

 ルーキーながら8勝目となり、ハーラー単独トップに立った。それでも小川は「まだまだ中盤」と言い切った。「最終的に優勝して日本一になるのが目標。通過点です」。遠のきかけている目標を決してあきらめない。頼もしい巨人キラーが誕生した。【浜本卓也】

 ◆巨人キラーメモ

 巨人戦の通算勝利が最も多いのは国鉄時代の金田正一で65勝。2位は平松政次(大洋)の51勝で、通算50勝以上は2人しかいない。1シーズンで最も勝ったのは54年杉下茂(中日)の11勝。連勝は62~63年権藤博(中日)の11連勝が最多で、ほかに57~58年金田正一が10連勝、71~73年星野仙一(中日)が10連勝、95~97年山内泰幸(広島)が10連勝している。山内泰幸は新人の95年が10試合に登板して6勝0敗で、デビューから巨人戦で無傷の10連勝を記録した。