<巨人4-3阪神>◇3日◇東京ドーム

 巨人がついに優勝マジック点灯に王手をかけた。同点の7回、中井大介内野手(23)が左越えに4号決勝ソロアーチをかけ、たぐり寄せた。東京ドームでの阪神戦連敗も5で止める貴重な1勝。今日4日に勝てば、2002年8月13日を更新し、原辰徳監督(55)が指揮を執るシーズンでは最速となるマジック43がともる。もう「優勝街道」をひた走るだけだ。

 無駄のない、美しい一振りだった。同点の7回無死。中井のバットが、阪神エース能見の内角へのチェンジアップを最短距離のスイング軌道で捉える。きれいな弧の4号決勝ソロが左翼席に描かれた。「今までならドライブしているような打球で、正直あそこから落ちちゃうかと思った。でもしっかりボールの下にバットが上から入って、いい角度が出たと思う」。納得の技術が生んだ1発だった。

 中井の打球の質には原監督も舌を巻いた。「ああいう強い打球が打てる、うちにはいないタイプ。腕っぷしが強い。長野でも勇人(坂本)でも村田でもない」。枢軸と呼ぶ強打者とは異質の能力を持っていることを認めた。

 独特の打球は、1つの教えが育んでいる。ゆっくりなスイングを貫け-。この言葉を胸に刻んでいる。11年。わずか半年間、チームメートだったサブロー(現ロッテ)に退団前に声をかけられた。

 「お前のゆっくりとしたスイングは誰もができることじゃない。そこは、忘れない方がええぞ」

 打者にはそれぞれに理想のスイングがある。だが実戦になると相手がいる。間合いを崩されれば、理想のスイングを変化させても、打ちにいく。そこを変えずに、自分のスイングでゆっくりと振る感覚。「長いこと野球界にいるけど何人もおらん」(サブロー)という天性のスイングを兼ね備えている。中井は「あまりそれを言われたことはなかった。その感覚は大事にしたい」と言う。先輩からの教えを胸にとどめ、今季の大ブレークにつなげた。

 やられたらやり返す、倍返しだ-。プロの世界でも通ずる鉄則も守った。前日2日の試合では2打数無安打、失策も犯し、途中交代。試合後はケアに時間をかけ、最後に帰宅した。その時に「代えられても仕方がない打撃だった。もう1回気持ちを入れてやる」と誓った。能見にもプロの洗礼を浴びせられていた。7月2日の対戦では3安打を放ち、レギュラーへのきっかけをつかんだが、15日の試合では4打数無安打とねじ伏せられた。だが、この決勝弾で、まとめて“倍返し”だ。

 巨人打線の顔と言えば阿部、坂本らだが、8番の中井が連日のように殊勲の男になっている。阪神に層の厚さを見せつけ、また突き放した。「伝統の一戦のプレッシャーはある。でも今は楽しんで試合に出られている」。巨人の誇る若き力で、今日にも連覇へのマジックがともる。【広重竜太郎】

 ◆「倍返し」

 TBS系連続ドラマ「半沢直樹」のセリフ。大手都市銀行の半沢融資課長は融資トラブルを解決するため銀行内外の敵に立ち向かう。決めぜりふは「やられたら、やり返す。倍返しだ!」。堺雅人主演。7月28日放送回は今年のドラマで首位の視聴率22・9%を記録。