<中日0-1阪神>◇11日◇ナゴヤドーム

 阪神藤浪晋太郎投手(19)がセ界制圧だ。中日戦で自己最長の9回を投げて2安打無失点。打線が10回に決勝点を奪い、自己最多の132球の力投は報われ、8勝目を挙げた。これで藤浪はセ・リーグの5球団から勝利。所属球団を除いて同一リーグの5球団すべてから白星を挙げるのは高卒新人では99年松坂(西武)以来、セでは67年江夏(阪神)以来だ。

 未知の領域だった8回に、藤浪は余力を残していた。両チーム無得点。先頭の井端に四球を許し、2死三塁まで追い込まれた。絶体絶命で大島を迎え、再びスイッチが入った。初球の直球は151キロを計測。過去最長が7回だった右腕の勢いは衰えない。4球目も151キロ。フルカウントからの6球目、三たび151キロを投じ、二ゴロで窮地を脱した。あふれ出る闘志が底力を呼び覚ました。

 ステップアップはそれで終わらなかった。9回の攻撃で打順が回ってきた。球数は6月9日に記録した、これまでの最多118に迫る112を数えた。だが、和田監督は、そのまま藤浪に託した。「ビッグチャンスなら(代打も)考えたけど、あと少しいこうと。最後に勝ちをつけてやれて良かった」(和田監督)。6回無失点だった4日巨人戦に続きゼロ行進を続けていた。「前回の巨人戦が自信になったんじゃないか」と成長を実感した指揮官の読みは当たった。藤浪は先頭打者に四球を与えたが、きっちり後続を断ち切り、9回を投げきった。

 132球。首脳陣は早くから、体ができあがらない夏まで球数を100球前後に制限する方針を固めていた。だが、リミッターは事実上解除された。藤浪自身、“一人前”と認められた期待は感じ取っていた。7回2死一、二塁で打順が回ってきた際に交代を命じられず「この試合を任せてもらっているという、期待に応えないといけないと思った」と振り返った。

 初体験のナゴヤドームで、初回先頭の大島を四球で出塁させるなど立ち上がりは苦しかったが、乗り越えた。終わってみれば被安打2。苦にしていた左打者も無安打に封じた。奪三振も自己最多タイ7。「マウンドがしっくりこないところがあった。硬さや傾斜の角度、微妙ですけどそのあたりですね」と言いつつ、高い修正能力で尻上がりに調子を上げた。

 最後に勝利の女神がほほえむのは、何とも持っている男らしい。すでに降板が決まっていた藤浪がベンチで見守る中、10回2死から先制。セ5球団制覇の8勝目が転がり込んだ。逆転Vを信じる信念がルーキーを突き動かす。1年前の夏の甲子園で「優勝するんだというのをずっと思い続けてましたし、それを目標にずっとやってきた」と春夏連覇を達成した。諦めず、目の前の敵を倒すことに集中する。勝つために何が大事か、この男は知っている。

 熱投を終えてもケロリとしたもの。「今日に関してはまだまだいけましたし、疲労もいまのところあまりないです」。末恐ろしい19歳が、どこまで成長するのだろうか。【山本大地】