ゴジラ流の指導が幕を開けた。プロ野球の春季キャンプが1日、各地でスタートし、球春到来を告げた。松井秀喜臨時コーチ(39)が古巣巨人の宮崎キャンプで指導者人生の船出を切った。初日は2軍練習を中心に視察。岡崎2軍監督から左の和製大砲候補、辻東倫内野手(19)を紹介され「じゃあ、見るよ」と期待の若手に腰を据えて指導することを約束した。信念の不動心らしく、ジックリと洞察して指導につなげていく。

 松井臨時コーチの目が、あどけなさの残る19歳の少年をとらえた。2軍練習のひむか球場。岡崎2軍監督から促された少年に「2年目の辻です」と自己紹介された。

 「じゃあ、見るよ」

 短い言葉で返した。だが真意には13日間のキャンプを通して、しっかり観察して、助言を送っていく思いがあふれていた。

 松井コーチはケージ裏でフリー打撃を見守った。左の和製大砲候補、辻は緊張感からか、いきなりバットを折った。だが徐々にペースを取り戻し、才能の片りんを感じさせる鋭い打球を放った。球団史上屈指の左の長距離砲だった先輩は「正直、練習だけじゃ分からない部分がある。でもスイング自体は悪くなかった」と慎重に言葉を選んだ。

 安易に教えることはしなかった。日本球界から長らく遠ざかっている。選手の名前も力量も分からないことが多い。そんな雲をもつかむような状態で、技術指導をすれば迷いを与える可能性もある。原監督が指導を依頼した大田のティー打撃も最初は後方から見守った。しばらくして近づき、ネット越しに座り込み、未完の大器をジッと観察した。打撃練習後には2人だけで約2分間、話し込んだ。昨季まで背番号55を背負った後輩との会話に「これは2人だけの話」と、おもんぱかった。

 関係者によれば「おいおい、教えていくから」と伝えたという。選手の特徴をとらえ、課題に沿った指導をする。洞察するための時間が必要だった。2軍視察を終えた松井コーチは原監督に「時間があるから、じっくり見ていきます」と話し、目についた選手を何人か挙げた。

 左の長距離砲の系譜をつなぐことも期待されている。原監督は「由伸と阿部。以降、自前で長距離の左バッターが育っていない」と感じている。松井コーチも昨年12月に自宅のあるニューヨークでの阿部との対談で、左の後継者不在の現状は聞かされていた。「難しいよね。教えて育つなら、簡単なことはない。ある程度、素材がいて、そうなる。素材だけでもダメ。それに伴う心と頭も持っていないと、そこまでそろわない」。心技体すべてを伴った逸材を探さなければいけない。そして鍛錬の先に巨人に脈々と続く左の長距離砲の系譜に名を連ねる選手が育つと考えている。

 初日を終え、新米指導者は言った。「選手の元気な姿、ハツラツとプレーする姿を見て、頼もしいと感じた」。12年ぶりの宮崎には希望を持てる選手がいた。松井コーチが近未来の巨人ナインを育んでいく。【広重竜太郎】

 ◆辻東倫(つじ・はるとも)三重県出身。菰野では甲子園出場なし。昨年は新人合同自主トレで動体視力、3000メートル走でトップ。2軍では72試合に出場し、221打数47安打、0本塁打、19打点、打率2割1分3厘。昨年末は台湾でウインターリーグに参加。今季から背番号を93から65に変更。今季推定年俸630万円。血液型B。