<ソフトバンク0-1ロッテ>◇1日◇東京ドーム

 お立ち台に上がったロッテ唐川侑己投手(24)に、思わぬサプライズが待っていた。決勝本塁打を放ったブラゼルから、氷水を浴びせられた。「まさか、ですよね。普段だったら怒るところですけど、今日は怒れませんね」。今季初勝利をもたらしてくれた助っ人のいたずらに目を細めた。

 8回5安打無失点の堂々たる結果と、圧倒的な内容が、その心のゆとりになった。直球は143キロを計測し、スライダーはファウルと空振りの山を築いた。今季ここまで8戦して0勝5敗。「ロッテファンに嫌われても仕方がない。誰が見ても足を引っ張っていた」と卑下した姿は、みじんも見られなかった。

 5月15日のソフトバンク戦を最後に2軍落ち。小谷投手コーチと、復活に向けての修正に取り組んできた。2月のキャンプの良かった時に戻すことがテーマ。力を抜き、ゆったりとした重心移動をすること。肩越しに捕手を見ること。踏み出した左足をブレさせないこと。3つのポイントの修正で姿勢が正され、腕が走り、球にキレが戻った。

 小谷投手コーチが言う。「唐川の投げ方というのは肘の使い方とか独特な部分がある。いわば唐川流の家元。いじれない部分もある」。それだけ繊細な修正作業。1カ月半かかった。「球はしっかり投げられているから大丈夫。あとは大ざっぱになるな」。そう言って送り出してくれた名伯楽のためにも、勝ちたい試合だった。

 よくやく手にした白星だが、苦しんだここまでを唐川は振り返らない。「今、振り返るより、これからのことが大事。勝てるということが分かったので」。シーズン序盤でつくった借りは、ここからコツコツと返していく。家元が、復活ののろしを上げた。【竹内智信】