<阪神3-1中日>◇20日◇京セラドーム大阪

 立ち位置にヒットマンの知恵があった。浜田と向き合う阪神鳥谷敬内野手(33)は、いつもより前で構えた。わずかに2足分ほどの差だ。「投手は毎回、調子が違うし、対戦したときの自分の状態もあるから」。普段は打席後方の内側の角に左足を置くが、臨機応変にアレンジする。ホームベース先端の位置まで25センチほど前にシフト。軟投派の左腕を打ち崩す準備を整え、勝負に臨んでいた。

 打席の前に立った6回、甘い直球をさばき、ライナーで左前に運んだ。1、4回も巧みなバット操作で安打を連ねており、得点には絡まなかったが2戦連続の3安打。「自分の状態と相手の状態のなかで、しっかり打てた」。浜田には、これまで今季2戦で6打数無安打に抑えられていた。大きく曲がるスライダーやストンと沈むチェンジアップが特徴だ。前に立てば、大きく変化する前にとらえられる利点もある。鳥谷は自らの間合いに引き込むために工夫し、鮮やかにリベンジ。プロ通算111度目の猛打賞を記録し、球団5位の今岡誠氏(日刊スポーツ評論家)に肩を並べた。

 鳥谷にとって、今岡氏は常に向上心をかきたてられる先輩だ。数年前から「3割10本塁打のラインではなくて3割30本100打点。そういう目標を持ってほしい」と声を掛けられてきた。今季は1500安打にも到達し、打者として、さらに高みを目指すためにも本塁打量産は理想だろう。

 京セラドーム大阪の駐車場で引き揚げる際「今日は何もないよ」と苦笑いし、愛車に乗り込もうとした。いや、違う。鉄壁の守備こそ、最大の勝因だ。7回に中堅大島の落球で勝ち越し点を奪った直後。8回、代打高橋周のライナーがショートバウンドで遊撃を襲う。絶妙なハンドリングでつかみ、アウトにした。「捕ったというより入った」と謙遜するが、準備のたまものだ。プロ入り後、グラブは年々小さくなり、数年前までモデルチェンジを重ねた。軽くなれば素早くさばける。

 勝負どころの球際をそつなくこなし、守備に乱れた中日とのコントラストを描いた。堅守は優勝チームの条件だ。打って守る…。キャプテンは常勝軍団の姿勢を体現した。【酒井俊作】

 ▼鳥谷が3安打を放って通算111度目の猛打賞を記録し、今岡と並んで球団史上5位となった。今季13度目。鳥谷自身のシーズン最多は07年の15度。